コラム

診療報酬改定の流れと中医協

早くも2ヶ月が過ぎようとしていますが、4月1日に診療報酬改定が行われました。

医療機関にとって診療報酬改定は非常に大きなイベントですが、その詳細についてはあまり知らない人も多いのではないでしょうか。

今回の記事では、そんな診療報酬改定について一連の流れと、中心となる中央社会保険医療協議会(以下、中医協)について簡単に紹介しようと思います。

診療報酬改定の仕組み等について興味があるけど、聞き慣れない単語が多すぎて・・・といった方は、ぜひ読んでみてください!

中医協とは

診療報酬改定のニュースを見ていると、よく出てくるのが中医協という名前です。

中医協とは厚生労働大臣の諮問機関であり、診療報酬の改定などについて審議しています。(実際にはもっと様々なことが話し合われているので、詳しくは以下のページ参照)

中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会総会)

諮問機関とは、行政庁の諮問に応じて学識経験者などが審議・調査を行い、意見を答申する機関のことを言います。審議会や協議会、専門委員会などの名前が付いています。

 

日本の保険医療は公定価格制であるため、その公定価格を話し合う中医協は影響力の非常に大きな機関といえます。

また関連組織として、薬価を専門に扱う薬価専門部会などもあります。

中央社会保険医療協議会(中央社会保険医療協議会薬価専門部会)

医薬品の製造販売を承認するかどうかは別の諮問機関である薬事・食品衛生審議会で審議されますが、承認後の保険適用の可否や薬価については中医協で審議されます。

診療報酬改定の流れ

そんな中医協ですが、診療報酬改定について全てが中医協で決められるわけではありません。

  1. 政府:全体の改定率
  2. 社保審議会:改定の基本方針
  3. 中医協:個別の点数設定

といったように役割分担がされています。

社保審議会(社会保障審議会)というのは、中医協と同じく厚生労働大臣の諮問機関で、医療保険に限らず社会保障の様々分野の審議が行われています。社保審議会の中でも、医療保険部会医療部会において診療報酬改定の基本方針を決定しています。

 

以前はほぼ全て中医協で決定していましたが、色々な問題もあり、現在では中医協に権限が集中しないような仕組みとなっています。

経済財政運営と改革の基本方針2021(2021年6月18日)

ここからは診療報酬改定の流れを、2022年度改定に関係した日付入りで紹介していきます。

まずはスタートとして、診療報酬改定とは少し関係ないのですが、経済財政運営と改革の基本方針というものがあります。

骨太の方針といえば聞いたことあるかもしれません。

経済財政運営と改革の基本方針2021

骨太の方針とは政権の重要課題や翌年度予算編成の方向性を示す方針のことで、毎年6月頃に、内閣総理大臣を議長とする経済財政諮問会議での答申を経て閣議決定されます。

年によって大きく変わるわけではありませんが、逆に言えば新しく加わった内容は特に重要とも言えます。

2021年の骨太の方針で、薬局に関わってきそう内容として以下のものがありました。

後発医薬品の品質及び安定供給の信頼性の確保、新目標についての検証、保険者の適正化の取組にも資する医療機関等の別の使用割合を含む実施状況の見える化を早期に実施し、バイオシミラーの医療費適正化効果を踏まえた目標設定の検討、新目標との関係を踏まえた後発医薬品調剤体制加算等の見直しの検討、フォーミュラリの活用等、更なる使用促進を図る。かかりつけ薬剤師・薬局の普及を進めるとともに、多剤・重複投薬への取組を強化する。症状が安定している患者について、医師及び薬剤師の適切な連携により、医療機関に行かずとも、一定期間内に処方箋を反復利用できる方策を検討し、患者の通院負担を軽減する。サプライチェーンの実態を把握し、平時からの備えと非常時の買い上げの導入など、緊急時の医薬品等の供給体制の確立を図る。

2022年度の調剤報酬改定と繋がっていることが分かるかと思います。

中医協総会での検討スタート(20021年7月)

すでに各部会等で議論は始まっているのですが、だいたい改定前年の7月頃から中医協総会での議論がスタートします。

医療経済実態調査(2021年11月)

その後も色々なところで議論が勧められる中で、11月頃に医療経済実態調査が発表されます。

第23回医療経済実態調査の報告(令和3年実施)

医療経済実態調査とは、病院や診療所、歯科診療所、保険薬局における経営等の実態を明らかにし、診療報酬に関する基礎資料を整備することを目的として、中医協が2年に1度実施している調査です。

例えば2021年の調査で薬局に関しては、

  1. 2020年度の保険薬局全体の損益率は6.7%
  2. 管理薬剤師・一般薬剤師の給与はともに減少傾向

などといったことが挙げられており、こういった情報が診療報酬改定の参考にされます。

また2016年度の診療報酬改定から、処方箋枚数が一定枚数を超える場合に調剤基本料が低くなるような、大型チェーン薬局に対応する特例が新設されました。

これも医療経済実態調査において、20店舗以上のチェーン薬局は利益率が高いという結果が出たことによるものです。

診療報酬改定の基本方針(2021年12月10日)

12月になると、社会保障審議会から診療報酬改定の基本方針が公表されます。

診療報酬改定の基本方針

今回の改定における基本方針として、大きなものとしては

  1. 新型コロナウイルス感染症等にも対応できる医療提供体制の構築
  2. 社会保障制度の安定性・持続可能性の確保

などが挙げられています。

また、薬局が関係するものとしては

  • 薬局の地域におけるかかりつけ機能に応じた適切な評価、薬局・薬剤師業務の対物中心から対人中心への転換の推進

が挙げられました。これはもう何年も言われていることですね。

全体の改定率(2021年12月22日)

その後、年末には診療報酬改定全体の改定率が公表されます。

診療報酬改定について

今年度の診療報酬改定は全体で+0.43%、そのうち調剤は+0.08%となっています。

なおご存知の方も多いと思いますが、診療報酬改定については

医科:歯科:調剤=1.0:1.1:0.3

という比率がずっと続いています。

医師会なんかはこの比率をもっと医科寄りにするよう主張していますが、なかなか変わりません。

国家予算との兼ね合い

この改定率ですが、当然ながら国家予算との兼ね合いがあります。

日本の一般会計において社会保障関係費は36兆円を超え、歳出の約3分の1を占めます。

中でも医療給付費は12兆円を超えており、その増減に直結する改定率は重要なファクターです。

そのため、財務大臣、医師会会長、与党議員などの様々な政治的交渉を経て決定されます。

そして12月中に改定率が決定されるとともに予算案が閣議決定され、年明けからの通常国会に提出されます。

今年で言うと、2022年度の予算は2022年3月22日の参院本会議で成立しました。

諮問(2022年1月14日)

年が変わり2022年1月、厚生労働大臣から中医協への諮問があります。

諮問書

「基本方針と改定率を踏まえて改定内容を検討してください」といったものですが、検討については年が変わる前に大方終わっています。

短冊の公表(2022年1月26日)

諮問から約2週間後の1月26日、厚生労働省が「個別改定項目(その1)について」を公表します。通称「短冊」というやつです。

個別改定項目(その1)について

短冊では、細かな点数はまだ不明なものの、どういった改定があるのかが公表されます。

今回の改定でいえば、

  • 地域支援体制加算が細かく分かれること
  • 調剤基本料に新しい括りが出来ること

などが、この段階で判明したことになります。

答申(2022年2月9日)

短冊の公表後、中医協などで最後の詰めが行われます。決定された改定率を踏まえて個別項目の点数が決まり、最終的に中医協から厚生労働大臣への答申となります。

中央社会保険医療協議会 総会(第516回)議事次第

診療報酬改定に係る告示・通知(2022年3月4日)

最後に、厚生労働省から改定に関する通知がでて、関連省令が改正されて終了です。

令和4年度診療報酬改定について

薬価改定も併せて

また、診療報酬に併せて薬価基準の改定も、2022年3月4日に厚生労働省から公表されています。

今年の薬価改定は、改定率が医療費ベースで-1.35%(うち通常の改定部分が-1.44%、不妊治療の保険適用対応分が+0.09%)となり、通常の改定部分を薬剤費ベースに換算すると-6.69%となります。

医薬品メーカーだけでなく、在庫を多く抱える薬局にとっても、薬価改定の改定率は経営に影響を与えます。

薬価改定のスケジュール

薬価改定の簡単なスケジュールとしては、改定の前年9月(今回の改定でいえば2021年9月)取引分を対象に医薬品価格調査が行われます。

その調査結果から平均乖離率(医療用医薬品の市場実勢価格と薬価の差)が算出されるのですが、調査結果の集計は年内に行われ、今回の改定では2021年12月3日の中医協において医薬品価格調査の速報値が公開されています。

令和3年医薬品価格調査(薬価調査)の速報値

2021年の医薬品価格調査では、平均乖離率は7.6%でした。

その後、これまでの薬価専門部会における議論や骨太の方針を踏まえ、令和4年度薬価制度改革の骨子が2021年12月22日の中医協で了解されています。

令和4年度薬価制度改革の骨子(案)

これらの平均乖離率や薬価制度改革の骨子をもとに薬価改定率が決定します。

そして最後に、2022年3月4日に厚生労働省から、診療報酬と併せて薬価基準の改定が正式に告示されています。

まとめ

以上今回は、診療報酬改定の流れと中医協について簡単にまとめてみました。

診療報酬改定に騒ぎつつも、実際にどのような流れで決定されてるのかは知らなかった人も多いのではないでしょうか。

普段あまり情報を追っていない人にとっては、知らない言葉も多かったかもしれません。

もし今回の記事で、診療報酬改定や今後の薬局業界・薬剤師業界に興味を持たれた方は、ぜひ普段の中医協での議論にも注目してみてください。

またこの時期であれば、6月頃に公表される骨太の方針に注目してみるのも面白いかもしれませんね。

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