コラム

薬局やドラッグストアの障害者雇用と特例子会社

2023年6月15日、福岡県を中心に薬局やドラッグストアを運営する大賀薬局が、株式会社カムラックと障害者の就労支援を目指して業務提携することを発表しました。

今回の業務提携では、カムラック社が運営する障害者支援事業の障害者メンバーが大賀薬局の業務を担当し、一定レベルに達した障害者メンバーについてはカムラックから大賀薬局へ就職の機会も提供するそうです。

私も以前勤めていた薬局で障害者雇用にかかわりましたが、薬局での障害者雇用はなかなか難しいというのが印象でした。

そういった意味で、このような業務提携は非常に社会的意義のあるものだと感じます。

そこで今回の記事では、薬局やドラッグストアの障害者雇用についてまとめてみようと思います。

障害者雇用

障害者雇用促進法では、障害者の雇用の安定と就労機会の促進を目的とし、障害者の雇用を促すためのさまざまな規定が定められています。

その中でも会社にとって一番影響の大きなものが障害者雇用率です。

障害者雇用率制度(法定雇用率)

障害者雇用率制度とは、民間企業や国・地方公共団体に一定以上の割合で障害者を雇用するように義務づける制度のことです。

障害者は一般の就労者に比べて雇用機会を得にくくなっているため、一定割合の雇用を義務づけることで雇用機会を確保することが障害者雇用率制度の目的です。

現行の民間企業の法定雇用率は2.3%となっていますが、来年・再来年と引き上げられることが決定しています。

現行 2024年4月~ 2025年4月~
法定雇用率 2.3% 2.5% 2.7%
障害者雇用の対象となる会社の範囲 従業員43.5人以上 従業員40人以上 従業員37.5人以上

雇用すべき障害者数の算出方法

雇用すべき障害者の人数は、次の計算式で求められます。

(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)×障害者雇用率(2.3%)

このなかで

  • 常用労働者:1週間の労働時間が30時間以上の従業員
  • 短時間労働者:1週間の労働時間が20時間以上30時間未満の従業員

となっており、1週間の労働時間が20時間未満のアルバイトやパートの従業員はカウントしません。

例えば、

  • 週40時間勤務の正社員が100人
  • 週24時間勤務のパート従業員が20人

このような会社の場合、

(100+20×0.5)×2.3%=2.53 (小数点以下切り捨て)

となり、雇うべき障害者の数は2人となります。

障害者とは

ちなみに、何をもって障害者というかは様々な考え方があると思います。

しかし障害者雇用率はあくまで障害者雇用促進法の制度であるため、法律における定義に従う必要があります。

障害者雇用促進法においては障害者の定義を

身体障害、知的障害、精神障害、その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者

と定めており、具体的には以下のようになります。

A.身体障害者 「身体障害者手帳」を所持している人
B.知的障害者 「療育手帳」を所持している人
C.精神障害者 「精神障害者保健福祉手帳」を所持し、症状が安定して就労が可能な人
D.精神障害者 統合失調症、躁うつ病(躁病とうつ病を含む)、てんかんがあり、症状が安定して就労が可能な人
※手帳所持者は除く
E.その他の障害者 その他の心身機能障害があり、手帳を所持していない人

この中で、障害者雇用率を算出する際にはA,B,Cを対象として障害者雇用率を算出します。

障害者雇用ビジネス

このように法定雇用率が年々引き上げられる中、厚生労働省が発表した「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業に雇用されている障害者の実雇用率は2.25%となっており、ぎりぎり2.3%に達していない状況です。

また、来年・再来年の引上げが決定していることもあり、近年では障害者雇用ビジネスが良くも悪くも注目されています。

障害者ビジネスとは、障害者雇用を自社でおこなうことが難しい企業に対して、障害者が働くための就業場所や、障害者の紹介をするビジネスです。

提供された就業場所で働く障害者は利用会社の所属であり、就業場所の管理運営費、障害者の紹介料などを利用会社が負担するビジネスモデルとなります。

事実上の障害者雇用の代行といえます。

ただし障害者雇用促進法は、障害者を経済社会の労働者の一員として、本人の希望や適性に応じた能力発揮の機会を付与することなどを目的としています。

ただ単に雇用率達成のみを目的とするような障害者雇用ビジネスの利用には注意が必要です。

特例子会社

もうひとつ、障害者雇用には特例子会社という仕組みがあります。

特例子会社とは、障害者の雇用において特別の配慮をする子会社のことをいいます。

具体的には、一定の要件をみたしたうえで生労働大臣から特例子会社として認定を受けることで、特例子会社で雇用された障害者を親会社やグループ会社全体の雇用であるとみなして障害者雇用率を算出することができるのです。

私も薬局の障害者雇用にかかわりましたが、薬局の店舗で障害者雇用をすすめようと思うと、なかなか難しいんですよね。

障害の種類にもよりますが、身体であれば、車いすのスペースが足りなかったり。

知的や精神であれば、患者対応が難しかったり。

唯一成功したのは、精神の方をピッキング専門として採用したケースでした。

こういった場合に、店舗で直接雇用するのではなく、特例子会社でまとめて採用し、

  • 掲示物や広報資料のデザイン
  • 店舗の清掃
  • 事務作業

などを全店舗ぶん引き受ける方が上手くいくと思います。

障害者雇用の実績がない薬局店舗で新しく雇用するより、ノウハウの蓄積がある特例子会社で雇用する方が長続きしやすい、という事情もあります。

もちろん薬局の店舗で働きたい!という方には合わないのですが。

薬局やドラッグストアの特例子会社

実際に薬局やドラッグストアの大手でも、この特例子会社の仕組みを利用している会社があります。 

名前を見れば、どこの会社の特例子会社かは分かるのではないでしょうか(笑)

  • クオールアシスト株式会社
  • スギスマイル株式会社
  • ウエルシアオアシス
  • 薬樹ウィル株式会社
  • ココカラファイン ソレイユ
  • サンドラッグ・ドリームワークス
  • 株式会社クリエイトビギン
  • 株式会社キリンドウベスト

まとめ

以上、今回は、薬局やドラッグストアの障害者雇用についてまとめました。

障害者雇用の全体像から、薬局やドラッグストアがどのようにして法定雇用率の達成を目指しているか、なんとなく理解できましたでしょうか。

薬局やドラッグストアで働くひとは、一般の人と比べて障害というものに対する理解があると思います。

そして、障害者と一緒に働くことは、とても多くの新たな気付きがあります。

これまで障害者と一緒に働く機会の無かった方は、ぜひ一度、障害者雇用というものについて考えてみていただければと思います。