「これって労働時間になりますよね?」
このような相談を受けると、意外と返答に困ります。
なぜなら、労働時間について法律では定義されていないからです。
ではどうやって労働時間について判断するかというと、これまでの裁判例等から判断するわけです。
今回は労働時間の考え方について、できるだけ簡単に解説します。
労働時間の位置づけ
これまでの裁判等により、一般的には
「使用者の指揮命令下に置かれている時間」
が労働時間とされています。
また、使用者の指揮命令下に置かれていれば、実際に作業をせず待機している時間も労働時間になり、このような時間を手待時間といいます。
考えてみれば当たり前な話ですが、薬局に患者さんがおらず暇だったとしても、いつ来ても対応できるように待機している時間は労働時間ということです。
一方で、始業時刻から終業時刻までの時間を拘束時間といいますが、たとえ拘束時間にあっても指揮命令下になく、労働から解放され自由に過ごすことが可能な休憩時間などは労働時間にあたりません。
指揮命令下とは
労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされていますが、少し抽象的でイメージしにくいと思います。
そこで、平成29年に策定された「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、労働時間を「使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間」としています。
そもそも指揮命令下に置かれていたかどうかが難しい話ですので、明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間という考え方が加わっています。
黙示の指示
会社からの指示には、明示的なものだけでなく黙示的なものも含まれます。黙示的とは、明確な指示ではなく暗黙のうちに気付かせるような方法で示すことを言います。例えば、会社が残業を指示していなくても、とても18:00までには終わらないような業務量が与えられており、実際に20:00まで残って業務を終わらせたとします。その場合、明確な指示が無かったとしても黙示的な残業指示があったと認められる可能性が高くなります。
また、具体例として少なくとも次の①から③のような時間は労働時間として扱う必要があるとしています。
- 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
- 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
- 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
このガイドラインが薬剤師業務にかなり参考になるので、少し詳しく見てみます。
なお、労働時間に該当するかは労働契約等の定めではなく、客観的にみて労働者が指揮命令下に置かれているかどうかで判断されます。
また指揮命令下に置かれているかは、労働者が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況から、個別具体的に判断するとされています。
開局前の着替えや開局前後の掃除
『①使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間』
この具体例を読んで、薬局やドラッグストアの開局前の着替えや開局前後の掃除を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
具体例の通り、これらの業務が使用者の指示であれば労働時間になります。
手待時間なのか休憩時間なのか
『②使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)』
この具体例を読んで、思うことがある人もいるのではないでしょうか。
薬局やドラッグストアでよく問題になるのが、一人薬剤師の休憩時間です。
休憩時間でも患者がきた場合には対応しないといけない場合も多く、そうなると休憩時間ではなく、この具体例にあるような手待時間と言えるでしょう。
そして手待時間であるならば、労働時間となるはずです。
しかし実際には休憩時間として運用している薬局やドラッグストアも多く、たびたび問題になってます。
この問題については、会社が少しでも早く改善するべきでしょう。
研修への参加
『③参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間』
この具体例にあたるケースも、薬局やドラッグストアには多いように思います。
特にかかりつけ薬剤師指導料や地域支援体制加算の影響で、認定薬剤師の研修を受けるよう薬剤師に指示する会社は多いです。
しかしそれが強制なのであれば、研修の時間は労働時間です。
特にeラーニングの時間は労働時間としていない会社も多いですが、それが指示なのであれば労働時間として扱うべきですので注意が必要です。
まとめ
以上、今回は労働時間の定義について簡単に解説しました。
近年は時間外労働に上限規制ができたり、労働の生産性が強く意識されるようになってきました。
これらの大前提は、労働時間を正確に把握することです。
そして労働時間を正確に把握するためには、そもそも労働時間とは?という問題にぶつかります。
もしこれまで労働時間について曖昧にしてきたのであれば、この機会にきちんと整理しておきましょう。