年次有給休暇(有休)は、入社後6ヶ月経過したタイミングで付与される会社が多いです。
そのため、入社間もない時期に風邪をひいてしまったりすると、まだ有休がないので困ってしまうことがあります。
通常であれば欠勤となり給与が減ってしまうのですが、「有休を前りできれば・・・」と考える人も多いと思いのではないでしょうか。
実際に有休の前借りを認めてくれる会社もありますが認めてくれない会社もあり、大手ほど認めてくれない会社が多い印象です。
では有休の前借りは違法なのでしょうか。
結論としては違法と適法ともいえるほどの根拠がないというのが正直なところであり、法律に詳しい方でも意見が分かれるところではありますが、今回簡単に紹介します。
年次有給休暇の前借りとは
まず「有休の前借りってどういうこと?」という方のために簡単に紹介しておきます。
例えば2023年4月1日に入社した正社員の場合、2023年10月1日に10日の年次有給休暇が付与されます。
しかし8月に風邪をひいて仕事を2日間休んだ場合、通常であれば8月はまだ有休がないためその2日間は欠勤となり、2日分の給与が減額となります。
このときに年次有給休暇を2日前借りして取得することで給与が減額されず、10月1日には8日の年次有給休暇を付与されることを年次有給休暇の前借りといいます。
年次有給休暇の前借りで違法となり得る点
労働基準法39条では、年次有給休暇について以下のように定めています。
使用者は、その雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
しかし先ほどの例のとおり年次有給休暇を2日前借りした場合、入社してから6か月経過したタイミングでは8日の年次有給休暇しか付与されません。
これを違法と見るかです。
- 6か月経過したタイミングで考えれば見れば8日しか付与してないので違法
- 6か月の継続した期間で見れば10日付与しているので適法
ここは実際に意見が分かれているところです。
2日の前借りに加えて、6か月経過したタイミングでも10日付与すれば違法ではないとの意見もありますが、そんなのはもはや前借りではないですからね(笑)
私は後者の意見で、6か月の継続した期間で見れば10日付与しており、労働基準法よりも労働者に有利な年次有給休暇の付与をしているだけなので、適法と考えています。
またそう考える理由として、行政通達により分割付与が認められていることもあります。
行政通達により年次有給休暇の分割付与は認められている
年次有給休暇の分割付与は、行政通達により次の要件を満たす場合に限り認められています(平成6年1月4日基発1号)。
- 分割付与により法定の基準日以前に付与する場合、8割出勤の算定は、短縮された期間は全期間出勤したものとみなすこと
- 次年度以降の年次有給休暇の付与日についても、初年度の付与日を法定の基準日から繰り上げた期間と同じ又はそれ以上の期間、法定の基準日より繰り上げること
後者の要件がすこし分かりにくいので具体例を挙げます。
- 2023年4月1日の入社時に5日を付与
- 2023年10月1日の半年経過時に5日を付与
このような分割付与の場合、翌年度は2024年の4月1日に2年目の年次有給休暇11日を付与しないといけないということです。
分割付与が認められているから適法なのか?
「あれ?分割付与も前借りもやってること同じ?」
と思った方も多いのではないでしょうか。
そうなんです、ほとんど同じなんです(笑)
じゃあ分割付与が認められてるんだから前借りも適法なのかというと、それはまた少し違う話です。
分割付与を認めているのは、あくまで行政通達。
行政と司法は別の機関ですので、行政が認めているからといって適法とまでは言い切れません。
事実、行政通達のとおりに行っていたのに裁判では負けてしまったという例が過去にもあります。
ですので、私は適法と考えてはいますが、適法と断言できるほどの根拠もないといったところです。
翌年度以降の問題も
またもし適法だとしても、分割付与として考えるなら、翌年度以降も有休を前借りした月に有休が付与される必要があります。
10月1日付与のところ8月に前借りして取得したのであれば、翌年度以降は8月に有休を付与する必要があるということです。
前借りは認めても、そこまでしている会社はほとんど無いと思います。
管理がすごく複雑になりますので・・・
年次有給休暇の前借りで注意するポイント
ここまで、年次有給休暇の前借りが違法なのかどうかの考えを書いてきました。
結論、違法とも言い切れないし適法とも言い切れないという、なんとも歯切れの悪い感じで終わりました(笑)
まあ法律なんてそんなものだと思うのですが、実務上は法律の前借り制度はオススメしていません。
前述したとおり分割付与とするなら管理が複雑になりますし、それ以上に大きな理由が退職してしまう場合があるからです。
8月に休んだ分を有休にして給与も払って、それなのに9月で退職・・・
本当だったら年次有給休暇が付与される前に辞めてるじゃん!!
ということで、大いに揉める可能性があります。
そういった理由から、年次有給休暇の前借り制度はオススメしません。
システムの問題も
また年次有給休暇をシステムで管理している場合、そのシステムが年次有給休暇の前借りに対応していない可能性もあります。
その場合は例外的に手動で管理することになり、大きな労力になってしまうからです。
入社時に年次有給休暇を付与してしまう方法も
このように、年次有給休暇の前借りは明らかな違法ではありませんが、制度として運用するためにはそれなりに労力がかかります。
かといって有休がまだない時期に風邪をひいてしまうと給与が減るというのも、当然といえば当然なのですが、少し辛いものがありますよね。
これらの事情を簡単に解決する方法が、入社時に年次有給休暇を付与してしまう方法です。
2023年4月入社であれば2023年4月1日に10日を付与し、2024年4月1日に11日、2025年4月1日に12日・・・と付与していきます。
労働基準法は最低基準を定めた法律ですので、それを上回るような運用は全く問題ありません。
半年早く年次有給休暇を付与することは、会社としては少し損する感覚があるかもしれません。
しかしそれにより色んな労力から解放されますし、「働く人のことを考えてくれる会社」として労働者から評価されることもあります。
実際に私の知っている会社でも入社と同時に年次有給休暇を付与し、特に小さい子供のいる従業員からすごく感謝されています。
小さい子供がいると、どうしても仕事を休む機会が増えてしまいますからね。
まとめ
以上、今回は、年次有給休暇の前借りについて紹介しました。
現状、違法とも適法とも言い切れませんが、個人的には適法なんじゃないかと考えています。
しかし実務上はあまりオススメできませんので、入社時に付与するなどの方法もオススメです。