雇用保険

定年再雇用で賃金が下がったときに貰える高年齢雇用継続給付

どんな業界にも栄枯盛衰はありますが、薬局業界も現在過渡期を迎えているといって良いでしょう。

そしてそれは一人一人の薬剤師にも言えること。

薬局業界を盛り上げてきた薬剤師の方たちが、少しずつ定年を迎えています。

「定年を迎えても働き続けたい」

という方に対して、日本では65歳までの雇用確保を会社に義務付けています。

しかし定年後の雇用について賃金に関する特別な法律はないため、

「定年前と同じ仕事をしてるのに賃金が半分くらいに減った・・・」

という話もたまに聞きます。

この賃金減額の是非はまた別の論点になるのですが、定年を迎えて賃金が下がったときに雇用保険から貰える給付に高年齢雇用継続給付というものがあります。

若い薬剤師の方には関係ない話ですが、もしかすると自分の親が関係してくる可能性もありますので、もしよければ読んでみてください。

高年齢雇用継続給付とは

高年齢雇用継続給付とは、60歳以上65歳未満の雇用保険被保険者が、60歳到達時点と比べて賃金が75%未満に低下した状態で働いた場合に雇用保険から支給される給付です。

2012年の高年齢者雇用安定法改正により、会社には従業員の65歳までの雇用確保が義務付けられており(2025年3月末までは段階的な経過措置あり)、

  • 定年の延長
  • 定年の廃止
  • 継続雇用制度の導入

のいずれかの措置をとる必要があります。

多くの会社が60歳定年退職後の再雇用という形での継続雇用制度を導入したものの、今度は賃金が問題になります。

定年前の高額な賃金のまま雇用を継続することは、会社としては現実的に無理だからです。

そのため会社は再雇用時に賃金を大幅に低下させるわけですが、そうなると今度は従業員の生活に支障がでます。

そこで、従業員の収入ダウンが生活に与える影響を緩和するために作られた制度が高年齢雇用継続給付です。

支給額の計算式

そんな高年齢雇用継続給付がいくら支給されるのかというと、計算式がかなり複雑なので知っておく必要はありません(笑)

ですが、興味ある人のために念のため触れておくと、以下のとおりです。

賃金低下率:支払われた賃金÷60歳到達時の賃金月額×100=X

支給率:(-183×X+13,725)÷280×(100÷X)=Y

支給額:支払われた賃金×Y×0.01

これを見てもよく分からないですよね。私も分かりません(笑)

まあ簡単にいってしまえば、賃金が大きく低下した人ほど支給率が高くなることになります。

ただ注意点として、最終的には実際に支払われた賃金に対して支給率を掛け合わせますので、60歳以後に貰う賃金が多ければ支給額も多くなりますし、賃金が少なければ支給額も少なくなります

収入ダウンが生活に与える影響を緩和するために作られた制度ですので、このような計算式になっています。

また低下率が61%以下、ようは賃金が60歳到達時の賃金月額と比べて6割を下回ったような場合には、支給率が一律で15%になります。

さすがにそれ以上は雇用保険でも面倒が見れないということです。

60歳到達時の賃金月額

60歳到達時の賃金月額は原則として、

  • 60歳に到達する前6か月間の賃金の総支給額を180で割った賃金日額の30日分

で算出します。

ただし、60歳到達時の賃金月額には上限額と下限額があります。

上限額と下限額は毎年8月1日に改定され、令和5年8月1日からは、

  • 上限額:486,300円
  • 下限額:82,380円

となっています。

たとえ60歳到達時に毎月100万円の賃金を貰っていたとして、高年齢雇用継続給付の額を算出するときには上限額である486,300円で計算することになります。

高年齢雇用継続給付の具体例

ではここからは、高年齢雇用継続給付の具体例を出して、実際にどの程度の額が貰えるものなのかをイメージしてもらえればと思います。

具体例(1)

60歳到達時賃金月額:450,000円

支払われた賃金月額:330,000円

この場合、賃金低下率は73.33%になりますので、支給率は1.49%となり、330,000円×1.49%で4,917円が支給されます。

具体例(2)

60歳到達時賃金月額:450,000円

支払われた賃金月額:270,000円

この場合、賃金低下率が60%となり61%以下であるため支給率は一律で15%となり、270,000円×15%で40,500円が支給されます。

具体例(3)

60歳到達時賃金月額:450,000円

支払われた賃金月額:250,000円

この場合も、賃金低下率が55,56%となり60%以下であるため支給率は一律で15%となり、250,000×15%で37,500円が支給されます。

具体例(4)

60歳到達時賃金月額:500,000円

支払われた賃金月額:365,000円

この場合、60歳到達時の賃金月額500,000円が上限額を上回るため、計算においては60歳到達時の賃金月額に486,300円を用います。

そのため、実際の賃金低下率は73%なのですが、継続給付の計算に用いる賃金低下率は365,000円÷486,300円=75.06%で75%以上となります。

そのため高年齢雇用継続給付は支給されません

高年齢雇用継続給付の支給限度額

高年齢雇用継続給付には支給限度額があります。

支給限度額とは何かというと、その月の賃金と高年齢雇用継続給付の合計金額の上限になります。

この支給限度額も毎年8月1日に改定され、令和5年8月1日からは370,452円となっています。

もし60歳以降も賃金が370,452円以上を支払われていた場合、賃金低下率が75%未満であっても高年齢雇用継続給付は支給されません。

また、支払われた賃金月額と高年齢雇用継続給付として算定された額の合計が支給限度額を超えるときは、合計で370,452円となるように高年齢雇用継続給付が調整されます。

今後の高年齢雇用継続給付

そんな高年齢雇用継続給付ですが、今後は少しずつ縮小され、将来的には廃止されることが決まっています。

というのも、継続雇用制度の段階的な経過措置が令和7年の3月で終了し、それ以降は65歳までの雇用確保が完全に義務付けられるからです。

もともとが従業員の収入ダウンを緩和するための制度なので、経過措置が終わったからといって廃止されるのはちょっと分からないですが、その方向で進んでいます。

予定としては、令和7年4月以降に新しく60歳になった人から高年齢雇用継続給付の支給率が徐々に引き下げられ、将来的に廃止となります。

まとめ

以上、今回は、高年齢雇用継続給付について紹介しました。

老後の生活を考えるとき、定年後も働き続けたときにどのくらい収入を得られるかというのは重要な要素です。

定年後の再雇用時にどのくらい賃金が下がるかは会社や労働者によって様々ですが、それと同時に雇用保険から給付を受けられる可能性があるということは知っておきましょう。

実際にはここに年金も絡んでくるのでもっと複雑なのですが(笑)

こういった内容でもしもっと詳しくしりたいことがあれば、気軽に連絡いただければと思います。