SNSの普及により、誰でも手軽に情報を発信できる便利な時代になりました。
薬に関する情報収集や情報交換にSNSも活用している人も少なくないかもしれません。
しかし、便利になる一方で誹謗中傷やデマの拡散、風評被害といった問題も増加しています。
医師や薬剤師をはじめとする医療従事者は、ミスや対応に関するクレームなどをSNSで拡散され名誉を傷つけられるケースもありますし、正しい情報発信に対して謂れのない誹謗中傷を受けるケースも見受けられます。
誹謗中傷を受けた場合、放置すると精神的にも負担になり、私生活や仕事にも悪影響を及ぼす可能性があります。
被害者にも加害者にもならないよう、関係する法律や適切な対処法を知っておくことが重要です。
本記事では、SNSでの誹謗中傷に対する法的な扱いについて詳しく解説します。
SNSの誹謗中傷とは?
誹謗中傷の定義
誹謗中傷とは、根拠のない悪口や嫌がらせで他人の名誉や人格を傷つける行為です。
特定の個人や組織に対して、侮辱や嫌がらせ、デマ情報、虚偽の発言を行い、その名誉や信用を損なわせる行為を指します。
インターネット上の誹謗中傷は、名誉毀損罪や侮辱罪などの刑事責任を問われる場合があります。
後述しますが、名誉毀損と侮辱罪の違いは、事実の摘示の有無です。名誉毀損は、事実を公然と摘示し、社会的評価を低下させることで成立します。侮辱は事実の摘示なしに公然と人を侮辱する行為で成立します。
誹謗と中傷
誹謗中傷という言葉は、誹謗と中傷の2つの異なる意味を持つ言葉が組み合わさったものです。
- 誹謗(ひぼう) … 悪口を言うこと
- 中傷(ちゅうしょう) … 根拠のないことで相手の名誉を傷つけること
例えば、
「○○はバカだ」 → 誹謗
「○○は犯罪者だ」(根拠なし) → 中傷
このように、誹謗中傷はどちらか一方、または両方を含むことがあります。
誹謗中傷の主なパターン
誹謗中傷が起こりやすい場面としては以下があります。
- SNSでの投稿や返信
- ネット掲示板での書き込み
- 口コミサイトでの虚偽の投稿
- ブログやニュースサイトでの偏った記事
- YouTubeなどの動画プラットフォームでの悪意ある発言 など
虚偽の情報を拡散
「〇〇薬局は薬を間違えることが多い」
「この薬剤師は適当な説明しかしない」
個人を特定して侮辱
「〇〇薬局の△△(個人名)は無能」
「△△(個人名)は最低な対応だった」
プライバシーの侵害
「あの薬剤師、××に住んでいるらしい」
「〇〇薬局の人、勤務中にこんなことしてた」
業務妨害
「〇〇薬局は違法なことをしている」
「この病院は絶対に行かない方がいい」
このような投稿が拡散されると、対象者だけでなく職場の評判にも大きな影響を与えるため、適切な対応が必要になります。
誹謗中傷の刑事責任
SNSでの誹謗中傷は、以下の法律に違反する可能性があります。
① 名誉毀損罪(刑法230条)
公然と事実(真偽問わず)を示して、他人の名誉を傷つけた場合に適用されます。
「○○は不正をしている」などをSNSで拡散した場合、仮に事実であっても公共性がなく相手の名誉を不当に傷つける内容であれば、名誉毀損が成立する可能性があります。
3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金
② 侮辱罪(刑法231条)
事実を示さずに他人を侮辱した場合に適用されます。
「〇〇は無能」「クズ」など、単なる悪口でも罪に問われる可能性があります。
1年以下の懲役または30万円以下の罰金
③ 偽計業務妨害罪(刑法233条)
虚偽の情報を流して、業務を妨害した場合に適用されます。
例:「この病院は誤診ばかり」と口コミサイトでデマ投稿、「〇〇薬局は薬を間違える」などの嘘の情報をSNS拡散するなど。
3年以下の懲役または50万円以下の罰金
④ プライバシーの侵害(民法709条)
個人の私生活を公開し、精神的苦痛を与えた場合に適用。
例:「あの人は××に住んでいる」などの個人情報を公開する。
損害賠償請求が可能
SNSの発信者情報開示請求の流れ
誹謗中傷を受けた場合、投稿者を特定し、損害賠償請求や刑事告訴をするために、SNS運営会社やプロバイダに対して発信者情報開示請求を行うことができます。
開示請求が通ると投稿者のIPアドレスが判明し、相手がわかるため訴訟することもできるます。
令和3年のプロバイダ責任制限法の改正で、開示請求が少ししやすくなりました。
IPアドレスとは、スマホやPCなど、ネットワーク上の機器に割り当てられるインターネット上の住所のような存在です。
SNSの誹謗中傷を防ぐために
そもそも、誹謗中傷は精神的にも社会的にも受けたくないもの。
仕事上、素性を明かしての情報発信が必要なケースもあるとは思いますが、誹謗中傷を受けないようなSNS運用をしていく必要があります。
被害を受けないための対策
個人情報を公開しすぎない
住所・勤務先・日常の行動をSNSに投稿しないよう気をつける。
不適切な投稿を見つけたらすぐに通報
SNSの報告機能を利用して削除依頼を出すなどの対応もできます。
名誉毀損に該当する投稿には反応しない
感情的に反論すると、トラブルが悪化する可能性があります。
会社の広報としてSNSの投稿をしていく場合は、社内での対策や、トラブルの際に弁護士さんに相談できるような環境を準備しておくことも大切です。
まとめ
- SNSでの誹謗中傷は、名誉毀損罪・侮辱罪・業務妨害罪などに該当する可能性があります。
- 投稿者を特定するためには「発信者情報開示請求」を行い、プロバイダを通じて情報開示を求めることができます。
- 証拠を確実に保存し、専門家(弁護士)と相談しながら進めることが重要です。
- 企業は、SNSリスク対策を従業員に周知し、トラブルが発生した際の対応を決めておくとよいでしょう。
SNSのトラブルは、早期対応がカギです。
もし誹謗中傷を受けた場合は、速やかに専門家に相談し、適切な対策を取りましょう。