前回の記事では、貰える年金額が物価や賃金で増減することを紹介しました。
今回の記事では、年金額増減のもう1つの仕組みであるマクロ経済スライドについて紹介します。
マクロ経済スライドは難しそうな言葉をしてますが、実際に難しいです。
年金を多少勉強した人でも、マクロ経済スライドは無かったことにしてる人も多いです(笑)
そんなマクロ経済スライドについて、細かなところは省略しつつ、年金額をどういった仕組みで増減させるのか簡単に紹介します。
我々現役世代のための仕組みとも言えるものなので、ぜひ読んでみてください。
マクロ経済スライドの背景
日本の年金制度は賦課方式のため、保険料と年金支給額のバランスは常に気を使う必要があります。
賦課方式とは、受給世代の年金給付をその時の現役世代の保険料で賄う仕組みです。もう一つの方式として積立方式があり、積立方式では、受給者の年金給付は自身の現役時代の保険料により積み立てられた積立金により賄われます。それぞれにメリット・デメリットがありますが、日本では賦課方式を採用しています。
しかし少子高齢化が進む中で、将来的に保険料がどこまで上がるか分からないような見通しでした。
そこで2004年の改正で、将来の保険料負担が重くなりすぎないように保険料率の上限を法律で定めました。
現在の厚生年金保険料率は標準報酬月額の18.3%となっており、これ以上は上がらないように法律で定められています。
ここまで、マクロ経済スライドは関係ありません。
その一方で、少子高齢化が続く中、保険料に上限が定められるということは年金支給額を調整する必要があります。
そのために、
- 現役世代の人口推移
- 平均余命の伸び
この2つをマクロでみて、年金支給額を自動で調整する仕組みが導入されました。
この仕組みがマクロ経済スライドです。
マクロ経済スライドの具体的な仕組み
次にマクロ経済スライドの仕組みについてもう少し具体的に紹介します。
マクロ経済スライドでは、
- 現役世代の人口推移
- 平均余命の伸び
からスライド調整率というものを算出します。
現役世代の人口は減り続けているため、保険料という収入は基本的に減り続けます。
一方で平均余命は少しずつ伸びているため、年金給付という支出は増え続けます。
この収入と支出のバランスを取るための調整に必要な数字がスライド調整率です。
そして、前回の記事で紹介した物価や賃金の上昇によって年金額が上昇する時に、スライド調整率を差し引いて年金額の上昇を抑える。
これがマクロ経済スライドの仕組みです。
2019年の例
実際にマクロ経済スライドが実施された2019年を例に見てみます。
2019年は、物価や賃金の上昇から、年金額は本来であれば0.6%上昇する予定でした。
しかし、マクロ経済スライドによって0.5%差し引かれ、実際の年金額は0.1%上昇となりました。
このようにして、収入と支出のバランスを調製していくのがマクロ経済スライドです。
マクロ経済スライドの問題点
このような仕組みのマクロ経済スライドですが、大きな問題点があります。
それは、マクロ経済スライドが、年金額が上昇する時にしか発動しないということです。
例えば、物価と賃金の関係から年金額が低下する年には、マクロ経済スライドによって更に下げ幅を大きくはしません。
このルールにより、実際のところマクロ経済スライドはまだ4回しか発動していないのです。
2015年、2019年、2020年、そして今年2023年の4回です。
物価と賃金の変動から年金額も変更される。
つまり、そもそも日本の景気が良好でなければ、マクロ経済スライドは発動しない仕組みなのです。
様々な要因から日本の景気は良好でない期間が長く、マクロ経済スライドが導入された2004年の想定よりも調整が進んでいないのが現実です。
まとめ
以上、今回はマクロ経済スライドについて紹介しました。
現役世代の負担を減らしてくれるマクロ経済スライドですが、実際にはまだ4回しか実施されていません。
しかし、こういった現役世代のための仕組みが年金制度の中にもあることを知ると、少し年金に対する印象も変わるのではないでしょうか。
幸か不幸かここ最近では物価が上がっており、賃金もわずかですが上がっています。
マクロ経済スライドが発動しやすい環境といえるでしょう。
とはいっても、我々が将来年金を貰うころには、年金だけでは生活できない時代になっているのは間違いありません。
というか、今ですら怪しいです(笑)
そんなわけで次回の記事では、将来の年金を増やすための制度である確定拠出型年金について紹介します。