日本では国民皆保険制度が導入されているため、国民は原則として何かしらの公的医療保険に加入する必要があります。
公的医療保険は大きく5種類に分けることができますが、どの保険に加入していても全国でほぼ同じ給付を受けられるのが大きな特徴です。
- 健康保険(協会けんぽ、各種健康保険組合):企業の従業者など
- 共済組合(各種共済組合):国家公務員や地方公務員、私学教職員など
- 船員保険(協会けんぽが運営):船舶の船員など
- 国民健康保険(市町村、各種国民健康保険組合):自営業者や退職者など
- 後期高齢者医療制度(後期高齢者医療広域連合)75歳以上、65歳~74歳で一定の障害の状態にある人
このような公的医療保険がある中、薬剤師の多くは①健康保険か④国民健康保険に加入しています。
そして退職をした場合、公的医療保険の選択肢は大きく5つとなります。
- 再就職先の健康保険に加入する
- 任意継続被保険者になることができる
- 家族が加入する健康保険の被扶養者になることができる
- 特例退職被保険者になることができる
- 国民健康保険に加入する
以下、それぞれの選択肢について見ていきます。
転職を検討していて、退職後の公的医療保険(健康保険)はどうしようかと迷われてる方はぜひ読んでいただければと思います。
①再就職先の健康保険に加入する
退職後すぐに再就職する場合、再就職先が健康保険の適用事業所であれば健康保険に加入することになります。
パートやアルバイトであっても、週の勤務時間が30時間以上(一定規模の会社は週20時間以上)などの要件を満たすと加入することになります。
この場合は②~④と異なり、要件を満たした時点で原則強制加入です。
再就職先の健康保険に加入せず、家族が加入する健康保険の被扶養者となるようなことはできません。
再就職先が個人薬局等の場合は健康保険の適用事業所でない可能性があるので、事前に確認が必要です。
②任意継続被保険者になることができる
退職までに継続して2ヶ月以上健康保険に加入していた場合、任意継続被保険者として2年間だけ、退職後も同一の健康保険に加入を続けることができます。
在職中は会社が保険料を半分負担してくれますが、任意継続被保険者になると保険料は全額自己負担になります。
任意継続被保険者になるためには、離職日の翌日から20日以内に加入の手続きをする必要があります。
退職後は何かと忙しくなるため、退職前から任意継続被保険者になるかどうか検討しておく方が良いでしょう。
③家族が加入する健康保険の被扶養者になることができる
退職後すぐには働かず家族の収入で生活を維持する場合、収入などの一定条件を満たすことで、家族が加入する健康保険の被扶養者となることができます。
被扶養者になることで、被保険者と同様に病気・けが・死亡・出産についての保険給付が行われます。
被扶養者の範囲
被扶養者となり得るのは被保険者の三親等以内の親族です。
三親等以内の親族のうち、
- 被保険者の直系尊属
- 配偶者
- 子
- 孫
- 兄弟姉妹
これらの親族は、必ずしも同居している必要はありません。
それ以外の場合は同居している必要があります。
また、75歳以上は後期高齢者医療制度に加入するため被扶養者にはなれません。
④特例退職被保険者になることができる
特例退職被保険者制度とは、厚生労働大臣の認可を受けた特定健康保険組合(2014年時点において全国で61組合のみ)が運営する退職者医療制度です。
退職後も特例退職被保険者として同組合に継続加入することで、75歳になるまで在職中と同じ内容の保険給付等を受けることができます。
該当する健康保険組合が少ないためあまり知られていませんが、薬剤師も多く加入している東京薬業健康保険組合がこの特定健康保険組合に該当するため、知っておいて損はないでしょう。
特例退職被保険者となれる人(東京薬業健康保険組合の場合)
特例退職被保険者となるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります
- 昭和59年10月1日以降に当組合の被保険者の資格を喪失している人
- 老齢厚生年金等の年金証書の交付を受けている人
- 当組合の被保険者期間が継続して20年以上または40歳に達した以降継続して10年以上ある人
この制度の趣旨が
『定年などで退職して厚生年金(老齢年金)を受けている人が、後期高齢者医療制度に加入するまでの間、国民健康保険の保険料と同程度の負担で、在職中の被保険者と同程度の保険給付や健康診査等を受けることができる』
というものであるため、このような加入要件となっています。
⑤国民健康保険に加入する
①~④に該当しない場合は国民健康保険に加入することとなります。
国民健康保険の保険料は各市町村によって異なりますが、前年の所得に応じて決まる部分があります。
そのため、収入のない期間が長引くほど翌年以降の保険料が少なくなります。
また、退職した理由等によっては保険料の軽減・減免を受けられる可能性があるため、事前に居住地の市町村に確認しておくと良いでしょう。
薬剤師国保とは
国民健康保険には、
- 全国の都道府県が運営する地域の国民健康保険
- 医師や薬剤師など業種毎に集まって作る国民健康保険組合
の2種類があります。
社会保険に加入していないような個人事業で働く場合、基本的には地域の国民健康保険に加入することになります。
しかし、薬局など特定の業種で個人事業を営んでいる場合や、そこで働く従業員は、業種毎の国民健康保険組合に加入することができます。
この薬剤師が集まって運営されている国民健康保険組合が薬剤師国保です。
社会保険でなく薬剤師国保に加入している薬局で働く場合、薬剤師も薬剤師国保に加入することになります。
退職後も薬剤師国保に加入
薬剤師国保に加入していて退職した場合、通常であれば薬剤師国保の加入要件を満たすことはできなくなります。
しかし薬剤師国保は少し特殊で、学校薬剤師や非常勤講師など薬業に従事していれば薬剤師国保の加入要件を満たすことができます。
加入要件は都道府県によって若干異なるため確認が必要ですが、もし退職後も薬業に従事し続けるのであれば薬剤師国保を検討してみても良いかもしれません。
ちなみに、都道府県によっては薬剤師会に所属している必要がありますが、千葉県の場合は
薬剤師資格を有し、現に薬事・薬剤の業務に従事する方
という要件だけで加入できたりするので、かなり多くの方が加入可能となっています。
フリーランス薬剤師の方も検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
以上、今回は薬剤師の退職後の公的医療保険(健康保険)について5つの選択肢を紹介しました。
「退職後はどの公的医療保険に加入するのが良いですか?」
と聞かれることがありますが、残念ながら一律の正解はありません。
個人の状況や収入状況、家庭状況によって正解は変わってくるからです。
また、近年の新型コロナウイルス感染症によって、傷病手当金を受給できる公的医療保険に加入するメリットが大きくなりました。
このように環境の変化によっても、どの公的医療保険に加入するのが正解かは変わってくるのです。
大切なことは、公的医療保険制度をきちんと理解し、状況の変化に合わせてその都度判断していくことです。
もし退職後の公的医療保険について迷うことがあれば、気軽にお問い合わせください。