近年、SNS採用はますます重要度を増しています。
少子高齢化の影響を受けて採用における売り手市場が続く中、SNS採用を巧みに活用して人材獲得に成功している企業も存在します。
薬局でも少しずつSNS採用に力をいれる企業が増えてきました。
そこで今回は、このSNS採用がなぜ普及しているのかという背景とともに、SNS採用のメリットと運用ポイントや注意点を紹介いたします。
SNS採用の普及
少子化が続く日本では売り手市場が続き、企業の採用活動は厳しさを増すばかりです。
その一方で、SNSにおける企業アカウントの力がここ数年で注目されています。
令和6年卒業予定の就活生を対象にしたアンケート調査では、66.5%の就活生が「選考に進む上で最も重視する要素」として「社員の雰囲気」を挙げています。
その理由としては、企業文化や実際の働く環境に対する期待があるようです。
そして、その「社員の雰囲気」を知る主要なツールとして、多くの学生が「企業SNS」を挙げています。
雰囲気を具体的につかむために、動画や写真が豊富に公開されているSNSは彼らにとって非常に有用な情報源なのです。
さらに同アンケートでは「就職活動を進める上で企業のSNSアカウントは必要だと思いますか?」との問いに対し90%を超える就活生が「必要」と回答しています。
「X Hiring」のβ版を提供開始
また、X(旧Twitter)においては、企業アカウントのプロフィール画面から求人情報にアクセスできる機能「X Hiring」をβ版として提供開始しました。
これにより、さらに手軽に企業情報と求人情報をリンクさせたSNS採用活動が展開できるようになることが予想されます。
SNS採用のメリット
SNS採用は、企業が自らのブランドや職場環境をアピールして求職者と直接コミュニケーションをとることを可能にする採用手法です。
具体的には、企業公式のSNSアカウントを通じて企業文化や働くメンバー、オフィスの様子などを随時発信し、フォロワーと直接対話を進めていきます。
これにより、求職者は働く「場」を身近に感じ、投稿に対する「いいね」などのリアクションや「コメント」を通じて、企業と低コストで双方向のコミュニケーションをとることが可能になります。
従来の採用手法と比較してSNS採用がもたらすメリットは数多く存在します。
1つ目は、効率的なコストパフォーマンスを実現できる点です。
従来の求人媒体を利用した採用と比較し、SNSを利用することで広告費を抑えつつ多くの求職者にアプローチすることができます。
2つ目のメリットは、企業の「本質」をダイレクトに伝えることができる点です。
画像や動画を通じて働く環境や社員の生の声を伝えることで、求職者に対して求人票の情報だけでは読み取れない企業の姿を伝えることが可能となります。
そして3つ目は、双方向性を持ったコミュニケーションがとれる点です。
求職者からの質問に即座に回答したり、フィードバックを直接受けたりすることで、企業としても市場のニーズを把握しやすくなります。
これらは採用後イメージのすり合わせや透明性の確保につながり、ミスマッチの防止にも役立ちます。
求職者の求職意思が顕在化する前から認知してもらう重要性
一般的に、求職者が求職意思を顕在化してからは、待遇面を中心とした短期間での検索ベースでの競争となりがちです。
また媒体への掲載には費用がかかりますので、そういった面でも資金がある企業のほうが一般的には有利となります。
重要なことは、求職者の求職意思が顕在化する前の段階から見込み者に会社を認知してもらうことです。
企業アカウント運用の注意点
ここからは、SNS採用の失敗例とそれに陥らないための注意点を考えていきます。
SNS採用の目的は、継続的な発信活動により潜在的な求職者との接点を増やすことです。
すぐには効果が現れないことを前提とした一定期間のSNS運用が求められます。
例えば次のような企業SNSは逆効果であると考えられます。
(1)投稿内容とタイミングから労働環境の問題を抱えることが窺える
投稿時間が深夜や早朝などの時間帯が多いと、 就活生に対して労働環境が厳しいという印象を与えてしまいます。
「こんな時間にいったい誰が投稿しているのだろう?」と考える就活生もいるはずです。
加えて、労働条件等を投稿する場合にはその内容が適法であるか確認しておくべきです。
企業アカウントの運用者が労務知識に乏しく、ブラックな内容を投稿して炎上を招いてしまうケースも少なくありません。
(2)ネガティブな口コミへの対応が不適切
SNS上で一般のユーザーからの批判的なコメント等に対しては適切な対応をする必要があります。
無視したり否定的なコメントを削除したりすることは、外部から見ると透明性や誠実さを欠いていると捉えられてしまいます。
このようなスタンスは、就活生に対して企業が真摯にフィードバックを受け入れ、改善に取り組む姿勢を示していないと印象付けてしまいます。
(3)投稿が極端に少ない
企業アカウントの投稿が1カ月に1回など極端に少ない場合も注意が必要です。
企業の特徴や価値が伝わらないだけでなく、オープンな場でのコミュニケーションを大切にしていない、またはデジタル時代のトレンドに取り残されているという印象を就活生に与えかねません。
あまりに投稿が少ないのであれば、かえって企業アカウントを作らない方が良いでしょう。
(4)一方的なコミュニケーションを続ける
フォロワーからの質問やコメントに対してほとんど応答がなく一方的な投稿のみを続けている企業アカウントもあります。
こういったケースでも、就活生に対してオープンで受入れのある企業文化が築かれていないと感じさせてしまうおそれがあります。
企業アカウント運用のポイント
これらの注意点をふまえて、最後にSNS採用における企業アカウント運用のポイントを挙げます。
(1)短期的な数値を過度な目標にせず、中長期で求職者候補を育てる意識を持つ
SNSでの採用活動は、一見するとその成果が数字で見えやすいため、フォロワー数や「いいね!」の数にとらわれがちです。
しかしこれらの短期的な指標が必ずしも採用成功につながるわけではありません。
企業は、SNSを通じて求職者との関わりを深め、求職者が自然と企業とコミュニケー ションをとりたくなるような関係を築くことを目指すべきです。
つまり長期的な視点でのブランディングやコミュニティの形成が求められます。
こうした目的を常に明確にすることは、いわゆる炎上マーケティン グ(あえて炎上を図ることでフォロワー数を増やそうとする手法)に陥ることによる企業ブランディングの毀損の回避にもつながります。
(2)採用活動そのものに関する従業員の理解度の向上
SNS採用を実施するしないにかかわらず、従業員が採用に関する基本的な知識を有することは必要不可欠です。
SNS採用を利用する場合には、特にSNSの拡散力がネガティブな方向に働くことには十分な注意が必要です。
採用フローの中での不適切な行動(例えば、個人情報の目的外利用など)は、採用手法の如何にかかわらず防ぐべきものですが、SNSで拡散された場合には、企業ブランディングの毀損はより大きなものになります。
リテラシーの向上は、コンテンツの質にも影響します。
ターゲットとする求職者が何を求めているのか、そのニーズにどう寄り添ったコンテンツを作るかなど、基本的な採用知識がSNS運用の質を高めます。
また、企業が求める人材像を明確にし、それをもとにしたコンテンツ作りも重要です。
(3)SNS活用のガイドラインの整備およびネットリテラシーの向上施策の実施
SNSを効果的に運用するには、ネットリテラシーの向上も必須です。
特に企業の公式アカウントからの投稿は企業のブランドイメージを左右するため、誤解を招かないような配慮が必要です。
また、SNS活用ガイドラインの整備も大切です。
何を発信してよく、何を避けるべきかの基準を社内で明文化して共有しておくことで、スムーズかつ一貫したコミュニケーションが可能になります。
発信内容についてダブルチェックが行えるような仕組みを導入することも効果的です。
(4)適切なフィードバックとコミュニケーションの確立
SNSは双方向のコミュニケーションが可能なツールです。
求職者からのコメントやメッセージに対して、企業からも適切なフィードバックを行うことで企業と求職者との関係性を深めることができます。
特にネガティブなコメントに対しては、適切な対応がかえってブランドの信頼を高める機会となり得ます。
ただしここでは、SNS運用に関わる従業員の労務管理も見逃すことができない論点です。
SNSは24時間活用可能なツールであり、効果を上げようとすれば所定労働時間に関係なくいつでも投稿が可能なものです。
思わぬ長時間労働やそれに付随する問題が生じないように、事前のルール整備は行っておきましょう。
過度な数値目標の設定もこうした事象を後押ししますので、本来の目的から逸脱することのないよう、常に見直しが必要です。
まとめ
以上、今回は、SNS採用の重要性と、企業がSNSを効果的に運用するためのポイントについて紹介しました。
企業のSNS採用戦略において重要なのは、単なるフォロワー数の増加ではなく求職者との質の高いコミュニケーションを目指すことです。
短期的な数値目標にとらわれず、中長期でのブランディングとコミュニティ形成を視野に入れ、一人ひとりのユーザーとの接点を大切にしましょう。
求職者と真摯に向き合い、ターゲットに合った情報を提供することで、信頼性の高い企業イメージをSNS上で築いていくことが可能となります。