賃金

薬剤師手当なら簡単に減給できる?違法じゃないの?

先日、某SNSで話題になっていた内容です。

基本給は簡単には減らせませんが、薬剤師手当などの手当なら簡単に減らせるのでしょうか?

答えはNOです。

基本的には基本給も手当も、簡単に減らしてしまうと違法です。

ただし、一定の条件下においてルールを守った場合に限り減給は可能です。

もちろん簡単ではありませんが。

また、基本給と手当を分ける意味がないかというと、そんなこともありません。

そんなわけで今回は、減給について解説します。

労働契約について

まず、大前提となる労働契約について知っておく必要があります。

会社で働くということは、会社と労働契約を結ぶということを意味します。

最近では業務委託で働くフリーランス薬剤師などもありますが、普通に働いている人であれば、会社とは労働契約を結んでいることになります。

ほとんどの方は、入社時に「雇用契約書」を作成しているのではないでしょうか。

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「雇用契約」と「労働契約」は厳密にいえば異なるのですが、基本的には同じものと考えてしまって大丈夫です。

で、労働契約って何なの?という話ですが、労働契約とは、

  • 賃金
  • 仕事の内容
  • 働く場所
  • 働く時間
  • 休日

などの条件について、労働者と会社とで約束することです。

この労働契約に基づき、労働者は労働を提供し、会社は賃金を支払います。

減給とは

では減給とは何を意味するのか。

減給とは、この労働契約の変更を意味します。

減給について労働者の合意があれば適法な変更ですし、合意がなければ一方的な変更となり、違法となる可能性があります。

合意がなければ減給はできない

労働契約について規定する労働契約法において、以下のような定めがあります。

(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

これがまさに、労働者と会社の合意による労働契約内容の変更です。

会社が「薬剤師手当を5万円から3万円に減らしても良い?」と提案し、労働者が「しかたないな~」と言えば、合意による労働契約内容の変更です。

こういった減給であれば全く問題ありません。

あり得ないとは思いますが(笑)

逆にいえば、合意がなければ労働契約内容は変更できないといえます。

つまり、労働者と会社の合意がなければ手当の減額もできないのです。

これが大原則です。

そして大原則ということは、例外もあります。

一定の条件下においてルールを守った場合に限り、減給は可能になります。

そこで次は、減給の方法について紹介します。

紹介した減給の方法であれば適法となる可能性がありますし、それ以外であれば違法となる可能性が高いです。

減給の方法は大きく3つあるので、それぞれ見ていきます。

  • 人事異動や人事評価による減給
  • 就業規則や賃金規定の変更
  • 懲戒処分による減給

人事異動や人事評価による減給

いくつかある減給の中で、適法となる可能性いちばん高いのがこの人事異動人事評価による減給です。

業務のミスマッチや本人の能力不足により「人事評価」で減給となるケースもあれば、管理薬剤師から一般薬剤師への「人事異動」などにより役職が下がり実質的に減給となるケースもあります。

管理薬剤師から一般薬剤師への人事異動は、管理薬剤師手当が無くなることで実質的に減給となるのが一般的ですね。

人事異動や人事評価による減給の条件

こういった人事評価や人事異動でなら減給は可能と思われるかもしれませんが、この方法にも条件があります。

それは、

  • 就業規則や賃金規定に減給の規定がある
  • 人事評価制度が従業員に周知されている

など、公平性のある運用がされていることが条件になります。

そうでないと、人事評価という名目でいくらでも減給ができてしまうからです。

また、人事評価や人事異動による減給であっても、

  • 処分が重すぎる
  • 不当な目的や動機がある

といったような場合には人事権の濫用として減給が無効と判断されるケースもあります。

就業規則や賃金規定の変更

人事異動や人事評価による減給は、特定の個人に対する減給です。

一方で次の就業規則賃金規定の変更による減給は、労働者一律での減給になります。

就業規則とは

労働者が10人以上の会社では就業規則の作成が義務付けられます。

就業規則とは何なのかを解説するとすごく長くなってしまうので省略しますが、すごく簡単にいえば『会社のルールブック』です。

会社のルールについて、すべてを雇用契約書に記載することはできません。

ですので、個人によって異なる賃金仕事の内容は雇用契約書に記載し、それ以外の社内統一のルールは就業規則に記載することが多いです。

例えば、

  • 薬剤師手当 50,000円

だったり、

  • 部長手当 100,000円
  • 次長手当 80,000円
  • 管理薬剤師手当 30,000円

のような社内統一ルールを就業規則に記載しておくわけです。

なお、賃金規定は就業規則の一部だと思ってもらって結構です。

賃金に関する規定もすべて就業規則に記載する会社もあれば、量が多いので別に賃金規定を作成する会社もあります。

ここで、能力不足により部長→次長へ降格になり手当が減るようなケースは、前述の人事評価による減給です。

就業規則や賃金規定の変更による減給は、この薬剤師手当を50,000円→30,000円に減らすような減給のことを言います。

こうなると、特定の個人ではなく全ての薬剤師に影響する減給です。

就業規則や賃金規定を変更して減給する条件

この就業規則や賃金規定の変更による減給も、一定の条件を満たすことにより可能であり、労働契約法に記載があります。

(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

長いので要約すると、

変更後の就業規則を労働者に周知したうえで、

  1. 労働者の受ける不利益の程度
  2. 労働条件の変更の必要性
  3. 変更後の就業規則の内容の相当性
  4. 労働組合等との交渉の状況
  5. その他の就業規則の変更にかかる事情

こういった様々な事情から考えて、その減給が合理的である場合には減給が可能とされています。

じゃあどんな状況であれば合理的なんだって話ですが、そこまで解説するとまた長くなってしまうので、今回は省略します(笑)

実際のところ、合理的かどうかというのも明確な答えはないので、過去の様々な裁判例から考える必要があります。

懲戒処分による減給

最後が規律違反などに対する懲戒処分による減給です。

これこそ減給が許されそうですが、それでもいくつかのルールがあります。

懲戒処分とは

そもそも懲戒処分とは、会社が秩序維持のため定めたルールに違反した労働者に対して行う制裁のことをいいます。

懲戒処分の種類は主に7つあり、処分の重さの軽いものから順に下記の通りです。

  • 戒告
  • 譴責
  • 減給
  • 出勤停止
  • 降格
  • 諭旨解雇
  • 懲戒解雇

このなかに減給もあり、会社のルールに違反した労働者に対して、懲戒処分として減給をする場合があります。

懲戒処分により減給する条件

減給に限らない話ですが、懲戒処分をするためには就業規則に記載が必要です。

一般的な就業規則であれば、懲戒の項目の中で減給処分となるケースが細かく記載されています。

労働者の行ったルール違反が、就業規則の減給処分の項目に記載されているケースに該当した場合に、懲戒処分による減給が可能となります。

重すぎる懲戒処分は無効

とはいえ、労働者の行ったルール違反にたいして減給処分が重すぎる場合、不当な懲戒処分として無効となる可能性があります。

たとえば、薬のピッキングミス1回につき1万円の減給、みたいな処分は、たとえそれが就業規則に記載されていようが無効になる可能性が高いといえます。

減給の限度額

また、懲戒処分としての減給には労働基準法にて限度額が定められています。

(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

これにより、1回のルール違反に対する減給処分は、平均賃金1日分の半額が限度額となります。

まとめ

いかがだったでしょうか。

この他にも減給には、労働組合との間で労働協約を締結して減給する方法などもあるのですが、薬局では労働組合の無い会社がほとんどなので今回は省略しています。

このように、基本的には基本給も手当も簡単に減給できるわけではありません。

ただし、一定の条件下においてルールを守った場合に限り可能となります。

また、基本給と手当を分ける意味がないかというとそんなことはなく、

  • 人事評価や人事異動による減給
  • 就業規則や賃金規定の変更による減給

これらの減給をできるだけ適法に行うためには、基本給と手当を分けておいた方が良いのです。

もし会社が一方的に手当の減額などをしてきた場合は違法の可能性が高いので、気になることがあれば気軽に連絡ください。

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