私は調剤薬局で薬剤師として10年働いた後、現在は社会保険労務士として開業しています。
そういった経緯から、最近では同業の先生から調剤薬局の労務管理について相談を受けることも出てきました。
実際に現場で働いていた人間にしか持てない視点も多いと思います。
この記事は「薬局の人事労務管理」というカテゴリーになりますが、基本的には、
現場で働いた経験のない(働かなくなって長い)経営者、管理職の方
薬局をクライアントに持つ士業の方
こういった方向けに「薬局の現場状況を踏まえた上でどういった人事労務管理が必要か」といった内容の記事になります。
もちろん実際に薬局で働いている方も、読んでみて改めて、自分たちの働き方を見直すキッカケにしてもらえればと思います。
今回は、薬局の残業時間の原因と解決方法についてです。
薬局でも、薬剤師の残業時間が問題になることがあります。
2023年4月からは中小企業でも月60時間以上の割増賃金率が50%に上がることもあり、残業時間の削減に取り組む薬局も多いです。
しかし薬局の場合、残業時間の発生する原因が少し特殊ということもあり、なかなか削減が難しい事情もあったりします。
その辺りのことについて、今回は紹介しようと思います。
目次
理由①:病院の影響で残業時間が多くなる
薬局は大きく2つの種類に分けられ、残業時間の事情が全然異なります。
- 門前薬局:病院の目の前(門前)にある薬局
- 面薬局:目の前に病院が無く、広域から処方箋を受け付ける薬局
このうち門前薬局は、目の前にある病院の影響を大きく受けます。
というのも、目の前の病院にかかった患者さんの処方箋を受け付ける必要があるからです。
法律上はどこの薬局に処方箋を持って行っても良いことになっていますが、現実問題として、門前以外の薬局に処方箋を持っていくと薬が揃わないことがあります。
また最近は薬の供給がかなり不安定なため、門前の薬局以外では薬を揃えられない可能性が以前より高くなっています。
そういった理由もあり、門前薬局は病院の患者さんがゼロになるまで薬局を開けておく場合が多いです。
薬局と病院で、そのような取り決めをしているところも多いでしょう。
病院の営業時間
ちなみに、薬局が影響を受ける病院の営業時間ですが、ホームページ等に記載されている営業時間通りに終わる病院はほとんどありません。
なぜなら、患者さんがゼロになるまで終わらないからです。
受付は終わるかもしれませんが、診療は続きます。
この傾向は個人の病院ほど顕著なのですが、記載されている営業時間はもはや受付時間と言えます(笑)
記載の営業時間が終わって受付を締め切り、実際に患者さんがゼロになるまで1-2時間かかるのも普通です。3時間なんてこともあります。
医療ですので、どれだけ混んでいようが、体調の悪い患者さんがいれば受け付けてしまうのも分かります。
しかしその結果、病院も薬局も終わるのが遅くなってしまうのです。
門前薬局は残業時間が多くなる
そういった事情から、特に門前薬局の従業員は残業時間が長くなる傾向にあります。
- 最後の患者さんに薬が出るか分からない
- 救急車で運ばれてきた患者さんが検査だけし、再び大病院に運ばれていくこともある
- 法律上はどこの薬局に処方箋を持って行っても良いわけで、開けて待ってたのに違う薬局に行ってしまう可能性もある
このような不確定要素が多い中で、病院が終わるまで薬局を開けて従業員も待機しているわけです。
その結果、門前薬局の従業員は、病院の影響によって残業時間が多くなってしまうのです。
「シフト制で回せば残業時間を減らせるのでは?」と思うかもしれません。
しかし営業時間通りに終わるなら良いのですが、何時に終わるか分からない状況で、終わるのが遅くなる前提でシフトを組むというのは至難の業です。
一方で面薬局の場合、どこかの診療所に営業時間を合わせる必要もないので、従業員の勤務時間は割と安定します。
理由②:薬歴記載により残業時間が多くなる
薬剤師の大切な業務として薬歴記載というものがあります。
薬歴は正式名称を「薬剤服用歴」といいますが、薬剤師が行った調剤や服薬指導、患者の体質や疾患、生活習慣、薬の副作用歴やアレルギーなどについて記録するものです。
そしてこの薬歴記載が、薬剤師の残業時間を多くするのです。
薬歴記載は当日中
薬局は、定められた項目を薬歴に記載し、さらに様々な要件を満たしたときに服薬管理指導料というものを算定できます。
この指導料は薬局の売上において割と大きなウエイトを占めるため、ほぼ全ての薬局が積極的に算定しています。
そしてこの薬歴の記載は、「速やかに」行うこととされています。
「速やかに」というのが厳密にいつまでなのか判断が難しいのですが、多くの薬局では当日中に記載するようルールを定めています。
その日渡した薬について当日の夜に質問の電話がくることもあり、薬歴が記載されていないと質問に答えるのが難しいからです。
営業時間中に薬歴を記載できれば良いのですが、忙しくてそれが難しい薬局もあります。
その場合は営業が終わってから記載することとなり、結果的に残業時間が多くなってしまうのです。
残業時間を減らす方法
では、こういった原因から多くなる残業時間を減らすには、どういった方法があるのでしょうか。
病院の影響で残業時間が多い場合
病院の影響で終わりが遅くなってしまうのは、正直どうしようもない部分があります。
出来ることとしては、
- 労働時間に縛られない人に夜働いてもらう
くらいでしょうか。
労働時間に縛られない人というのは、ようは管理監督者のことです。
薬歴の記載で残業時間が多い場合
薬歴の記載が原因で残業時間が多くなっている場合、前者と比べると解決方法があります。
まずは営業時間中に薬歴が記載できない原因を考える必要があります。
営業時間中にある程度薬歴が記載できれば、残業時間がそこまで多くなることはないからです。
その原因はだいたい
- 薬剤師でなくても出来る仕事を薬剤師がしている
- 根本的に人手不足
この辺りにたどり着きます。
あとはこの原因を改善するだけです。
まあそれが一番大変なんですが(笑)
まとめ
以上、今回は薬局の残業時間の原因と解決方法について紹介しました。
解決方法は薬局によって様々でしょうが、残業時間が多い原因はだいたいこの2つにたどり着く気がします。
残業次回の多い原因が病院の影響であればなかなか改善は難しいですが、もし薬歴記載が原因なら改善も可能だと思います。
最近は薬局においても、業務効率改善の様々なITツールがでてきましたので、そういったツールを積極的に導入していっても良いかもしれません。
薬局従事者の残業時間を減らし、より良いコンディションで働くことが、会社にとっても患者さんにとっても大きなメリットになるはずです。