フリーランス薬剤師が偽装請負にあたらないのか、気になってる方もいると思います。
フリーランス薬剤師が偽装請負にあたるかどうかは労働者性に尽きるわけですが、なぜ労働者性が大事なのかを最初に紹介しつつ、その判断基準についても書いていきます。
ただ、労働者性が大事な理由についてしっかり書くとすごく長くなるので、ここでは簡単に紹介する程度にして、労働者性の判断基準と私なりの考えをメインに書いていきます。
労働者性が大事な理由
フリーランス薬剤師とは、薬局と業務委託契約を結んで働く薬剤師です。
厳密な定義ではないですが、多くの方がそのような認識で「フリーランス薬剤師」という言葉を使っていると思います。
一般的な正社員、パート、アルバイトの薬剤師は会社と雇用契約を結んでいるのですが、フリーランス薬剤師は業務委託契約です。
業務委託で働くことにどんな意味があるかというと、労働者ではなくなるのです。
そして労働者ではないので、労働基準法が適用されないということになります。
- 年次有給休暇
- 時間外労働
- 休憩
- 休日
などの、労働基準法で定めている労働者保護の規定が適用されないということです。
またそれに付随して、会社は薬剤師を社会保険や雇用保険に加入させる必要もなくなりますし、労災も適用されなくなります。
このあたり、厳密にはかなり細かい話なのですが、長くなるので別記事にしておきます。
労働者性は働き方の実態で判断される
ここで大事なのは、労働基準法等における労働者かどうかは契約書の内容ではなく働き方の実態で判断されるということです。
業務委託契約を結んでいても実際の働き方が労働者のような働き方の場合、労働者と判断されて労働基準法等が適用されます。
なので、もし労働者のような働き方をさせているにも関わらず会社が残業代を払っていなかったり有休を付与していないと、労働基準法違反になる可能性がでてきます。
また勤務時間によっては雇用保険や社会保険に加入させていないという問題も生じます。
そんなわけで、フリーランス薬剤師が働くときには、
労働者性=労働者のような働き方をしていないかどうか
が問題となるわけです。
労働者性の判断基準
ではどうやって労働者性の判断をするかですが、労働基準法における労働者性の判断基準として、
労働基準法における『労働者性』の判断基準(昭和60年12月19日労働基準法研究会報告)
が有名です。
少し古い資料ですが未だに裁判でも用いられていますので、基本的にはこの資料の判断基準を参考にすることになります。
そんなわけで、資料の内容を簡単にまとめていきます。
難しい言葉がでてきますが、できるだけ薬局業務でイメージしやすいような説明を付けていきます。
労働基準法における労働者の定義
労働基準法においては、労働者を以下のように定義しています。
労働基準法9条
労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
- 使用される(指揮監督下)
- 賃金を支払われる(報酬の労務対称性)
この2点に注目し、「使用従属性」という言葉がよく使われます。
使用従属性があるかどうかで労働者性が判断されるということです。
なお、以下の要素の一つに該当するかどうかではなく、複数の要素を総合的に考慮して労働者性が判断されます。
「使用従属性」の判断基準
(1)「指揮監督下の労働」に関する判断基準
- 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
→契約した薬局から追加で業務の指示があった場合に断ることができるか
→断れない場合は労働者性強
- 業務遂行上の指揮監督の有無
→契約した薬剤師業務について具体的な指示があるか
→具体的な指示がある場合は労働者性強 - 拘束性の有無
→勤務場所や勤務時間が指定されているか
→指定されている場合は労働者性強 - 代替性の有無
→受託した薬剤師に代わって別の薬剤師を勤務させたり、薬剤師の判断で補助者を使うことが認められているか
→認められていない場合は労働者性強
(2)報酬の労務対称性に関する判断基準
→発生する報酬が、薬局で一定時間働いたことへの対価と認められるか
→認められる場合は労働者性強
「労働者性」の判断を補強する要素
また、「使用従属性」があるかどうか判断の難しい場合も多く、その場合には以下のような要素もふまえて「労働者性」を総合的に判断します。
(1)事業者性の有無
- 機械、器具の負担関係
→薬歴の機械や白衣等は誰が負担しているか
→薬局が負担している場合は労働者性強 - 報酬の額
→薬局で働く他の薬剤師と比べて、受け取る報酬が著しく高額か
→著しく高額でない場合は労働者性強
(2)専属性の程度
- 職務専念義務、現実的な兼業の可能性
→他の薬局で働くことを制限されていたり、事実上不可能であったりしないか
→制限されていたり事実上不可能な場合は労働者性強 - 報酬の生活保障的要素
→報酬に固定給の部分があるか
→固定給の部分があり生活保障的要素が強い場合は労働者性強
(3)公租公課の負担
→源泉徴収や社会保険料の控除があるか
→ある場合は労働者性強
こういった複数の要素を総合的に考慮し、労働者性が判断されます。
労働者性をめぐる過去の裁判例
上記が労働者性の判断基準になりますが、どうでしょう。
何となく分かりますかね?笑
労働者性をめぐる裁判は過去にも多く行われています。
そこで、過去の裁判で労働者性を肯定する要素や否定する要素として判断された事項について、一部ですが列挙してみます。
労働者性を肯定する要素
- 雇用契約の従業員と同様の服装指示・指導
- 業務の実施に諾否の自由がない
- 勤務場所・時間の拘束がある
- 報酬に労務対称性がある
- 週5日、1日8時間以上も委託会社に出勤
- 機材は受託者ではなく委託者のものを使用
- 業務についてマニュアルにより詳細かつ具体的な指示指導がなされていた
- 報酬は歩合制であるものの、業務内容の変動が乏しいため、毎月ほぼ固定されていた
- 賞与や退職金が支払われ、退職理由が自己都合であるか否かによって支給率に差があった
- 労働保険・社会保険がかけられていた
- シフトによって指定された休日の変更は認められなかった
労働者性を否定する要素
- 業務を引き受けるかどうかの諾否が存在
- 就業規則の適用はなし
- 一般の従業員と比べて毎月の収入が多い
- 勤怠管理が義務付けられてはいなかった
- 報酬は実績に応じた出来高制
- 勤務時間の制約はなく、出勤したかどうかのチェックもない
フリーランス薬剤師の労働者性に対する個人的な考え
ここまで、労働者性についての一般的な話を書いてきましたが、最後に個人的な考えを述べておきます。
個人的な考えとしては、
- フリーランス薬剤師はグレー。完全にホワイトな働き方はほぼ無理。
- フリーランス薬剤師という働き方には賛成。
です。
フリーランス薬剤師はグレーと考える理由
まず大前提として、労働者性を判断するのは労働基準監督署や裁判官です。
逆にいえば、何かトラブルがあって労基署や裁判所のお世話にでもならない限り、労働者性の判断は付かないわけです。
我々がどれだけ考えようが白黒は分かりません。
なので「フリーランス薬剤師ってどうなの?」と聞かれたらグレーとしか答えようがありません(笑)
さらに言えば、前述した労働者性の判断基準に、薬剤師の業務内容を考えるとどうしたって無理な点がありますよね。
「拘束性の有無」
通常の薬剤師業務だと、どうしても勤務場所は薬局に拘束されますし、勤務時間もある程度拘束を受けると思います。
「機械、器具の負担関係」
薬歴のシステムは薬局のものを使用することになります。
この2点を完全にホワイトにするのは現状無理だと思います。
他の点についても、話を聞くとクリアできていないことが多いです。
業務遂行上の指揮監督をがっつり受けていたり、薬局側で勤務時間を管理していたり。
とはいえ最終的には複数の要素を総合的に考慮して労働者性が判断されますので、黒とも言い切れません。
なので、どちらにしろグレーです(笑)
ただしグレーの中にも黒寄りのグレーと白寄りのグレーがありますので、可能な限り白寄りのグレーに近づけていくことが大切なのかなと思います。
そもそも世の中グレーだらけ
労働者性の弱い働き方が増えていくかも
そんな中、薬剤師の働き方にも多様性が出てきているということで、かなり労働者性の弱い働き方も今後増えると思っています。
まず1つ目が、在宅業務の業務委託契約です。
報酬を完全出来高制にします。
雇用契約を結んだうえで手当を付けるという運用もありますが、これは業務委託契約でも可能なように思います。
次に2つ目が、オンライン服薬指導の業務委託契約です。
これも完全出来高制です。
現状は少し縛りがありますが、今後は可能性が広がっていくように思います。
フリーランス薬剤師として働いていこうと考えている方は、こういった働き方についても情報収集していくと良いのではないでしょうか。
フリーランス薬剤師という働き方に賛成な理由
個人的には、フリーランス薬剤師という働き方に賛成です。
フリーランス薬剤師は業務委託契約を結んで働くわけですが、以前は、企業側が不当な搾取を目的として業務委託契約を結ぶケースがほとんどでした。
業務委託契約であれば残業代を払う必要もないですし、年次有給休暇を付与する必要もない。社会保険料や労働保険料もかからないですからね。
労働者性が問題となるのも、ほとんどがそういったケースです。
しかし近年では多様な働き方が可能となり、働く側も業務委託契約を望むケースが増加しています。
そういったケースに対して、どこまで労働者を保護する必要があるのか。
労働者保護を目的とする労働基準法等をどこまで適用させるのかというのは、日本に限らず他の国でも議論があります。
働き方の多様化にたいして法制度が追いついていない状況です。
そして私の知る限り、フリーランス薬剤師の方もみなさんフリーランスという働き方を望んでいます。
であれば、
『フリーランス薬剤師と薬局がそれぞれ業務委託契約のデメリットやリスクをきちんと理解しているのであれば、労働者性の判断基準に対してもう少し寛容でも良いのでは?』
というのが私の考えです。
もちろん何かあったときには裁判所や労働基準監督署に労働者性を判断されるわけですから、可能な限り労働者性を弱くする努力は必要ですが。
他にも、フリーランス新法などフリーランスを保護するための法律も成立しましたので、そういった法律も遵守する必要があります。
この考え方の問題点
とはいえ、この考え方にも問題があると思っています。
まず1つ目が社会保険についてです。
社会保険には労働者保護という観点だけでなく共助や公助の側面があるということです。
そういった意味で、労働者性と社会保険の加入については別個で考える必要があると思います。
もちろんフリーランスも国民健康保険や国民年金に加入しますので、損得の話ではないです。
次に2つ目が、企業間で公平な競争といえるか?という問題です。
グレーなところを攻めたもの勝ちの競争は、あまり気分の良いものではありませんよね。
この辺りは、自分自身もっと勉強していく必要があると思ってます。
まとめ
個人的な考えまで書いたら、かなり長くなってしまいました・・・
細かいところはかなり省略しましたが、せっかくなので別記事で書いていこうと思います。
- 労働者性のこと
- 業務委託契約で働くデメリットやリスク
- 偽装請負のこと
などなど、時間あるときにのんびり書いていきますので、よければまた読んでみてください!