コラム

薬剤師が副業を始める前に知っておきたいポイント

近年、「働き方改革」 の流れに伴い、副業や兼業を認める企業が増えてきています。

これにより、薬剤師も本業を持ちながら副業を行うケースが増え、フリーランスや個人事業主として活動する人も少なくありません。

しかし、副業を行う際には法律や勤務先のルール、税務、健康管理、労働時間の管理など、多くの点に注意が必要です。

本記事では、薬剤師が副業を始める際に知っておくべき法律や労働契約上のルール、許可の必要性、税務上の注意点などを詳しく解説します。

副業・兼業の推進と薬剤師の副業の現状

政府は「働き方改革実行計画」(平成29年3月)の中で、「柔軟な働き方がしやすい環境整備」 の一環として、副業・兼業の推進を掲げました。

これを受けて、平成30年1月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」 を公表し、企業に対して副業解禁を推奨する流れが強まりました。

このガイドラインでは、企業に対して 「原則として副業・兼業を認めるべき」 という方針を示し、厚生労働省のモデル就業規則も改定。

従来の「副業禁止」の内容から、「原則として副業を認める」内容へと変更されています。

薬剤師の副業は法律的に可能?

副業に関する法律の基本

薬剤師の副業は、法律上は禁止されていません。

しかし、勤務先の就業規則や副業の内容によっては制約があるため、事前に確認が必要です。

薬剤師法には副業を禁止する条文はありません。

ただし、医薬品医療機器等法(通称:薬機法/旧薬事法)第7条3項では「薬局の管理者(管理薬剤師)は勤めている薬局以外では薬事に関する仕事をしてはいけない」とされています。

裏を返すと、薬事に関する仕事以外に関しては、管理薬剤師であっても制約はないということにもなります。

労働基準法でも副業自体は制限されていません。

ただし、雇用契約上の就業規則で制限される場合がある点には注意が必要です。

就業規則による制限

薬剤師が病院や調剤薬局、ドラッグストアなどに勤務している場合、就業規則で副業を禁止されていることがあるため、まずは職場のルールを確認することが重要です。

完全禁止:副業を一切禁止している企業もあります。

許可制:副業をする場合は会社に申請し、許可を得る必要がある会社もあります。

自由(届出のみ):会社への報告義務はあるが、自由に副業ができる(例:一部の調剤薬局)。
➡ 就業規則で「副業禁止」となっている場合、無断で副業を行うと懲戒処分の対象になることがあるため、必ず確認が必要です!

薬剤師の副業の実態

薬剤師は、専門資格を持つため、本業を続けながら副業をすることが比較的容易です。

例えば、以下のような働き方があります。

  • ドラッグストア勤務+派遣薬剤師
  • 病院勤務+医療系ライター業
  • 調剤薬局勤務+学校薬剤師
  • 調剤薬局勤務+SNSマーケティング

このように、副業の選択肢は広がっています。

しかし、副業には法的な制約や勤務先のルールがあるため、適切に進めることが重要です。

副業をする際の注意点

競業避止義務(本業との競合禁止)

競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)とは、「競合企業への転職」「競合する企業の設立」などの競業行為をしてはならないという義務のことです。

薬剤師が副業をする際に最も注意しなければならないのが 「競業避止義務」 です。

これは、本業の企業の利益を守るために、同業他社での勤務や、顧客を奪うような行為を禁止するルールです。

違反となる可能性がある副業の例
❌ A薬局で薬剤師として働きながら、近隣のB薬局でも勤務
❌ 調剤薬局で働きながら、自分で個人経営の薬局を開く
❌ 勤務先の患者を副業先に誘導する行為
❌ 勤務先の情報を副業のライティングやSNSマーケティングなどに流用する
➡ 副業先が同業種である場合は、必ず就業規則を確認し、競業禁止規定に違反しないか注意が必要!

本業への影響(健康管理と労働時間管理)

副業を行う場合、「本業に支障を生じさせないこと」 が大前提になります。

労働時間が長くなりすぎたり、副業での疲労が本業のパフォーマンスに影響すると、勤務先から注意を受ける可能性があります。

それだけではなく、勤務態度からスタッフとのトラブルになるなんてことも・・・

・副業の労働時間を適切に管理
・本業の勤務に影響が出ないよう、十分な休息を取る
・体調を崩した場合は、無理に副業を継続しない

労働時間の通算と残業代の問題

労働基準法では、本業と副業の労働時間を通算して計算することが義務付けられています。

労働時間の通算の例

AさんがB社で6時間勤務し、その後C社で4時間働いた場合:
・労働基準法の法定労働時間は1日8時間
・C社での労働時間のうち、2時間分は「時間外労働」として割増賃金の対象
➡ 副業が労働契約(雇用契約)である場合、労働時間の通算が必要。

ただし、個人事業や業務委託契約として行う副業は労働時間に含まれないため、割増賃金の発生対象外です。

「勝手に副業しているのに割増賃金と言われても・・・」とトラブルにならないためにも、やはり事前の相談が大事な部分かもしれません。

副業に関する税金・社会保険の注意点

給与収入が2箇所から発生する場合、本業以外に収入がある場合は確定申告が必要になります。

  • 個人事業主やフリーランスとして働いている人
  • 給与所得が2,000万円を超える人
  • 副業の所得が年間20万円を超える人
  • 2ヶ所以上の就業先から一定の収入を得ている人

会社員だと必要なかった確定申告が、副業をすることで自分でやる必要が出てくるということです。

また、個人事業主として副業をする場合、開業届を提出して青色申告を活用するなど、会社員と違い自分で調べてやることはとても多くなると思ってください。

まとめ

副業をする際には、多くのメリットがありますが、法律・規則・税務・健康管理などに注意が必要です。

  • 副業が会社の就業規則で認められているか確認
  • 競業避止義務を守る
  • 本業に影響を与えないように健康管理を徹底
  • 確定申告などを適切に行う

副業を考えている薬剤師の方は、これらのポイントを押さえながら、安全に副業を進めていきましょう!

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