フリーランス薬剤師として働こうと思ったとき、切っても切り離せないのが契約の話です。
雇用契約とか業務委託契約とか言われても、いまいち分からないですよね。
・・・自分には関係ないと思った薬剤師の方。
たとえフリーランスでなくたって、薬剤師として働いていくということは契約だらけです。
在宅の患者さんに介護保険を使うとき、契約を結びますよね?
会社とは雇用契約を結んでますよね?
患者さんから処方箋をもらって薬を渡すという行為も実は契約だって知ってました?
そんなわけで今回は、薬剤師として働く全員に知ってほしい契約の話です。
できるだけ簡単に書きますので、もし良ければ読んでみてください。
契約とは
まずそもそもの話、契約とは何なのでしょうか。
契約とは、法的な権利義務関係が発生する約束のことをいいます。
会社と雇用契約を結ぶことで、薬剤師は働く義務が生じますし、その代わりに給与を貰う権利が生じます。
患者さんが薬局でOTCを購入するとなった場合、患者さんは代金を支払う義務が生じますし、その代わりに商品を受け取る権利が生じます。これは売買契約です。
このように権利義務関係が生じますから、その約束を守らなかったときには契約違反(債務不履行)として、履行を請求したり、損害賠償の請求をしたり、契約を解除したりすることになります。
雇用契約の解除のひとつが、いわゆる解雇ですね。
契約は自由に結ぶことができる
このような契約ですが、基本的には
- 誰と
- どのような内容で
- どのような形式で
契約をするかは自由とされています。もちろん、契約をするもしないも自由です。
このことを契約自由の原則といいます。
ただし、
- 法令に違反するような契約
- 公序良俗に反するような契約
は無効になることもあります。
またその他にも、
- 認知症の高齢者のように意思能力のない人との契約
- 勘違いして結んだ契約
- 脅迫されて無理やり結ばされた契約
なども、無効になったり取消になったりすることがあります。
典型的契約と非典型契約
民法には13種類の契約が規定されており、これを典型契約といいます。
- 贈与
- 売買
- 交換
- 消費貸借
- 使用貸借
- 賃貸借
- 雇用
- 請負
- 委任
- 寄託
- 組合
- 終身定期金
- 和解
一方で、民法に規定がないような契約のことを非典型契約といいます。
代表的なものとしては
- リース契約
- フランチャイズ契約
- 秘密保持契約
などが挙げられます。
契約は好きなように結んで良いと書きましたが、好きなように結んだ結果が典型契約のいずれかにあたれば、基本的には民法が定める基準にしたがって解釈・判断されることになります。
ご存知の方も多いと思いますが、民法627条には以下のような規定があり、これをもとに「就業規則に1か月と書いてあっても2週間で退職できる」のようなことが言われます。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
これ自体は間違っていませんが、この内容は典型契約である雇用契約に関する規定です。
ですので、請負契約など他の契約には影響しません。
役務提供型契約
この13種類の典型契約のうち、
- 雇用
- 請負
- 委任
- 寄託
については役務を提供するような内容の契約であり、役務提供型契約と呼ばれます。
役務とは簡単にいえば、他人のために行う労働やサービスのことです。
寄託契約は物を保管することを目的とする点で他の契約と区別しやすいです。
しかし雇用・請負・委任については、ある契約がどの役務提供型契約に該当するのか区別しにくいことも多いです。
ではここから、薬剤師も耳にすることの多いであろう雇用・請負・委任について紹介します。
雇用契約
雇用契約は、当事者の一方(労働者)が「労働に従事すること」を約束し、相手方(会社)が「これに対して報酬を与えること」を約束することで成立します。
ここで「労働に従事する」とは、会社の指揮命令下で役務を提供することとされています。
正社員に限らず、パートの薬剤師が会社と結ぶ契約も雇用契約です。
請負契約
請負契約は、当事者の一方が「ある仕事を完成すること」を約束し、相手方が「その仕事の結果に対して報酬を支払うこと」を約束することで成立します。
請負と雇用・委任との違いとしては、役務の提供自体を目的とするのではなく、「仕事の完成」のための手段として役務を提供するという点が挙げられます。
とはいえ、物の引き渡しを要しない請負の場合は役務の提供自体が目的に見えることもあり、雇用・委任との区別が難しいケースも多いです。
委任契約
委任契約は、当事者の一方が「法律行為をすることを相手方に委託」し、相手方がこれを「承諾」することで成立します。
委任は原則として無償でも成立し、有償の場合には報酬についても約束する必要があります。
準委任契約は「法律行為でない事務の委託」をするものであり、委任の規定が準用されます。
雇用との違いについては、雇用が相手方の指揮命令下の下で役務を提供するのに対し、委任・準委任は当事者の信頼関係に基づき一定の裁量が認められた中で役務を提供する点が挙げられます。
ただしこの違いについても、専門性の高い業務などでは区別が難しかったりするので注意が必要です。
調剤契約は準委任契約
患者が病院を受診して医師が診療を行うということは、患者と病院・医師の間で診療契約が成立しています。
この診療契約については裁判も行われており、民法における準委任契約であるとされています。
同様に、患者が薬局で処方箋を出して薬剤師が調剤をする調剤契約はも準委任契約であると考えられます。
なぜ診療契約や調剤契約が民法上の契約に該当するかどうかが大事かというと、契約によって守らなくてはいけない事項が民法に規定されているからです。
たとえば(準)委任契約においては善管注意義務が規定されています。
(受任者の注意義務)
第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
善管注意義務とは簡単にいえば、一般的に考えて当然要求される程度の注意を払う義務のことです。
診療ミスがあったときに、診療契約が準委任契約であれば善管注意義務発生しており、その義務を守っていたかどうかが争われたりするわけです。
業務委託契約とは
ここで簡単に業務委託契約についても触れておきます。
業務委託契約とは、委託者が受託者に対して何らかの業務を委託する内容の契約です。
内容は本当に様々で、
- ホームページ制作
- 記事執筆
- システムの保守管理
- 研修やセミナーの実施
など色々なケースで業務委託契約が結ばれています。
業務委託契約は民法に規定されていないのですが、その多くが
- 請負契約
- (準)委任契約
に該当します。
しかし業務委託契約は内容が様々なため、きれいに請負契約と(準)委任契約に分けることが難しいケースも多いです。
ちなみにフリーランス薬剤師が薬局と業務委託契約を結ぶ際には準委任契約が適切でしょう。
民法と労働基準法との関係性
ここまでの内容は基本的に民法の内容です。
民法は大原則として、対等な立場での契約を前提としています。
しかし労働者と会社の関係性、対等だなんて口が裂けても言えないですよね。力関係に圧倒的な差があります。
そこで、その力関係の差から労働者を保護するための法律が労働基準法です。
会社は民法だけでなく労働基準法も守る必要があることで、労働者が保護されているのです。
先ほど民法627条により2週間で退職できると書きましたが、労働基準法において、会社が過去するときには30日前に予告が必要と規定しています。
退職も解雇も契約の解約という点では同じなのですが、労働基準法により会社にだけ厳しいルールが存在するのです。
(解雇の予告)
第20条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
これが民法と労働基準法の関係性です。
まとめ
以上、今回は、薬剤師でも知っておいてほしい契約の話について紹介しました。
普段あまり意識しないかもしれませんが、身の回りは契約であふれています。
最後の方は少し難しい話になってしまいましたが、もし不明点などございましたら気軽にお問い合わせください。