裁判例

マスク着用の業務命令に従わない従業員に対する懲戒処分は有効

先日の労働新聞に掲載されていたのですが、コロナ禍におけるマスク着用業務命令に従わない従業員に対する懲戒処分の違法性が争われた裁判で、懲戒を有効とする判決が出たようです。

医療業界で働く人たちからすると、なかなか興味深い内容だと思いますので、今回簡単に紹介いたします。

裁判の概要

コロナ禍におけるマスク着用の業務命令に違反した労働者に対する、7日間の出勤停止処分の違法性などが争われた裁判で、東京地方裁判所は懲戒を有効と判断しました。

東京都内のタクシー会社で運転者として働く労働者が訴えを提起したもので、乗客から複数回クレームが寄せられていました。

同地裁は、同社は労働者が代表を務める労働組合との団体交渉で、「着用は業務命令」と回答したうえで、全従業員にマスクを配布していたと指摘。

労働者に業務命令という認識はあったと評価しています。

https://www.rodo.co.jp/news/172670/

マスク着用の業務命令

会社は従業員との間に成立した雇用契約に基づき、従業員に対して指揮命令権を有しています。

この指揮命令権に基づき、会社は残業を命じたり、別の勤務地への異動を命じたりすることが可能です。

このことを一般的に業務命令といいます。

とはいえ、会社はどんな命令でも出せるわけではなく、権利の濫用と認められる場合、その命令は無効と判断されます。

では、会社がマスク着用を命令した場合、この業務命令は権利濫用と判断されるのでしょうか。

もちろん絶対というわけではないですが、おそらく権利濫用とは判断されないでしょう。

そもそも会社には、労働者の安全に配慮するという安全配慮義務があります。

マスク着用の命令は、この安全配慮義務の一環としての命令という考え方ができるでしょう。

加えて、医療従事者であれば、患者さんや高齢者などハイリスクの方と多く接します。

そういった方たちのことを考えれば、マスク着用の命令も自然なことと考えられ、業務命令が権利濫用と判断される可能性はかなり低いでしょう。

懲戒処分の要件

ここまで、マスク着用の業務命令の権利濫用について考えてきました。

次に、その有効な業務命令に違反した場合、会社は懲戒処分が可能かどうかを考える必要があります。

会社が懲戒処分を行うためには、以下のような要件が必要とされています。

1,規則の明確性
懲戒処分を行うためには、就業規則や雇用契約書で、その行為が違反であると明確に定められている必要があります。

2,適正な手続きの遵守
懲戒処分を行う際には、規程に従った手続きを踏む必要があります。多くの会社では、従業員に対する意見聴取の機会の提供などが行われます。

3,処分の相当性
処分の内容が、違反行為の程度や影響、過去の実績などを考慮して、相当である必要があります。例えば、マスク着用の業務命令に一度従わなかっただけで懲戒解雇などは、相当性に欠けると判断されるでしょう。

このように、業務命令に従わなかっただけで、会社が自由に懲戒処分を行えるわけではありません。

要件を満たさなかった場合、後からその懲戒処分が無効と判断される可能性が高くなります。

今回のニュースのケースでは、こういった懲戒処分の要件や処分の相当性を考慮し、懲戒処分が有効と判断されたようです。

マスクの費用負担

最後に余談ですが、会社が業務命令としてマスク着用を命令するのであれば、そのマスク代は会社が負担するのが一般的です。

マスク着用を命令するものの、マスク代は従業員負担。それでいて、命令に従わない従業員には懲戒処分。

これは筋が通っていないですし、懲戒処分が無効と判断される可能性は高くなるでしょう。

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