裁判例

【裁判例】正社員の手当を削減しての格差解消は合法(山口総合病院)

2023年5月24日、正社員の手当を削減して非正規社員との格差を解消する手法について、就業規則変更の合理性を認める判決が、山口地裁でありました。

要旨

この裁判は、山口県の済生会山口総合病院の社員などあわせて9人が、非正規社員への手当を新たに創設するのに伴い正社員に支給していた住宅や扶養に関わる一部の手当を一方的に引き下げられたとして、引き下げ額あわせて6万9000円あまりを支払うよう求めたものです。

判決

山口地方裁判所は、正社員だけに支給していた手当を全社員対象の手当に改めたことについて、同一労働同一賃金の趣旨に添うとし、経営が右肩下がりで人件費抑制を意識しながら手当の組替えを検討する必要があったとして、訴えを退けました。

山口格之裁判長は、「女性の就労促進や若年層の確保という課題を抱える病院が、人件費の増加抑制にも配慮して手当の組み換えを検討する中で、非正規社員の手当の拡充は正社員らの不利益を低く抑えられるように検討して実施された」と指摘し、その上で「制度が根本的に変わる以上、支給条件の大幅な変更もやむをえず、新しい制度設計を選択する合理性と相当性が認められる」としています。

まとめ

今回の判決は、単なる不利益変更の合理性に関する判決ではなく、同一労働同一賃金の趣旨を意識しながら不利益変更の合理性に踏み込んだ初めての判決とされています。

地裁の判決ではありますが、同一労働同一賃金の趣旨を意識した不利益変更について影響を与えることになるかもしれません。

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