労災

薬局経営者やフリーランス薬剤師も?労災保険の特別加入とは

フリーランス薬剤師について話すとき、私はリスクとして必ず労災の対象とならないことを挙げます。

対象とならないのはフリーランス薬剤師が労働基準法上の労働者ではないからですが、実は労働者でなくても労災保険に加入する方法があります。

それが労災保険の特別加入です。

労災保険の特別加入は、薬局経営者でも薬剤師業務もしている場合には加入が可能ですので、この機会にぜひ知っておいていただければと思います。

労災保険の特別加入とは

労災保険は本来、労働者の業務中や通勤中の事故等に対して保険給付を行う制度です。

しかし労働者以外でも、その業務の実情などからみて保護することが適当と認められる場合には、特別に労災保険への任意加入が認められています。

これが労災保険の特別加入です。

労災保険の特別加入の種類

労災保険の特別加入は全ての人に認められているわけではなく、以下の4つに大別できます。

  1. 中小事業主等
  2. 一人親方等
  3. 特定作業従事者
  4. 海外派遣者

この中で④海外派遣者については、このブログの読者はあまり関係ないと思うのでそれ以外を紹介していきます。

もし④海外派遣者について詳しく知りたいという方がいれば連絡ください(笑)

ちなみに薬局経営者で薬剤師業務も行っている場合は①中小事業主等として特別加入が可能です。

①中小事業主等の特別加入

経営者や役員も、労働者と同じように仕事する場合は労災に特別加入できます。

ただし業種によって規模要件があり、一定の規模になると加入できなくなります。

まあ規模が大きくなったら、労働者と同じような働き方はしないよねってことです。

特別加入の対象者

中小事業主等とは、以下の①、②に当たる場合をいいます。

  1. 下に定める数の労働者を常時使用する事業主
  2. 労働者以外で①の事業主の事業に従事する人(事業主の家族従事者や、代表者以外の役員など)
業種 労働者数
金融業・保険業・不動産業・小売業 50人以下
卸売業・サービス業 100人以下
上記以外の業種 300人以下

ちなみに薬局は小売業になりますので、労働者数が50人以下の会社であれば経営者や役員も特別加入が可能になります。

特別加入の条件

中小事業主等として労災に特別加入するためには、対象者に該当するだけでなく、いくつかの条件があります。それが以下の3つです。

  1. 雇用する労働者について保険関係が成立していること
  2. 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること
  3. 中小事業主を含めて、家族従事者、その他の役員等全員を包括して特別加入を行うこと

①については、労災保険の対象となるような労働者を雇い、きちんと労働保険料等を納めていることが求められます。

②については、特別加入するからには事務処理を労働保険事務組合に委託し、正しく処理してもらってくださいねということです。

③については、他にも同様の役割の人がいるなら、自分だけでなく他の人も特別加入させてくださいねということです。

労働保険事務組合とは、労働保険の成立手続や労働保険料の申告・納付の手続、その他雇用保険の被保険者に関する手続など、中小企業にとってわずらわしく負担となる事務処理を受託して、代わりに各種届出等をする団体です。労働保険事務組合として事務処理を行うためには厚生労働大臣の許可が必要です。

給付の対象となる範囲

労災保険には様々な給付があります。

労災認定されたときに受けられる給付以前の記事で、労災に認定されるかは 業務遂行性 業務起因性 この2つが大切と紹介しました。 https://...

特別加入の場合すべての給付を受けられるわけではないので注意が必要です。

とはいっても中小事業主等としての特別加入の場合は、一般の労働者が受けられる給付と大差ありません。

唯一の違いは、事業主としての業務中の怪我等では給付を受けられないということです。

薬局経営者であれば、薬剤師業務中の怪我であれば給付を受けられますが、経営者としての会食中の怪我などは給付を受けられない可能性が高くなります。

なお、中小事業主等としての特別加入の場合、通勤災害については一般の労働者と同じように給付を受けられます。

一人親方等の特別加入

親方というと建設業や相撲を想像するかもしれませんが、ここでは自営業者のことをいいます。

労働者を使用することが常態となっている場合には該当しません。

特別加入の対象者

自営業者であれば誰でも一人親方等として特別加入できるわけではありません。

労働者と同様の保護が必要とされる以下の業種に限られています。

  1. 個人タクシー業者や個人貨物運送業者など、旅客や貨物の運送事業
  2. 大工、左官、とび職人など事業
  3. 漁船による水産動植物の採捕の事業
  4. 林業の事業
  5. 医薬品の配置販売の事業
  6. 再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業
  7. 船員法第1条に規定する船員が行う事業
  8. 柔道整復師法第2条に規定する柔道整復師が行う事業
  9. 改正高年齢者雇用安定法に基づく創業支援等措置業務
  10. あん摩マッサージ指圧師、はり師又はきゅう師が行う事業
  11. 歯科技工士法第2条に規定する歯科技工士が行う事業

特別加入の条件

一人親方等として特別加入するためには、一人親方等の団体(特別加入団体)に加入する必要があります。

そうすることで、特別加入団体を事業主、一人親方等を労働者とみなして労災保険が適用されます。

給付の対象となる範囲

保険給付の対象となる事故等は、事業ごとに限定されています。

たとえば医薬品の配置販売業者については

  1. 最初の用務先からその日の最後の用務先までの間に行う医薬品の配置販売業務
  2. ①に直接附帯する行為
  3. 医薬品の配置販売業務を行うために出張する場合

とされており、これ以外の業務中に起きた事故等は保険給付の対象とはなりません。

 通勤災害

通勤災害については、以下の一人親方等については給付の対象となりません。

  • ①個人タクシー業者、個人貨物運送業者
  • ③漁船による水産動植物の採捕の事業

イメージしてもらえれば分かりますが、通勤がないような事業ですね。

特定作業従事者の特別加入

一人親方等と大きな違いはないのですが、より従事する業務が限定されているような場合は特定作業従事者として特別加入することになります。

フリーランスなど、雇用類似の働き方をする人が中心です。

特別加入の対象者

特定作業従事者についても一人親方等と同じように、対象となる業務が限定されています。

  1. 特定農作業従事者
  2. 指定農業機械作業従事者
  3. 国または地方公共団体が実施する訓練従事者
  4. 家内労働者およびその補助者
  5. 労働組合等の一人専従役員(委員長等の代表者)
  6. 介護作業従事者および家事支援従事者
  7. 芸能関係作業従事者
  8. アニメーション制作作業従事者
  9. ITフリーランス

特別加入の条件

こちらも一人親方等の特別加入と同じく、特定作業従事者の特別加入団体に加入することで、特別加入団体を事業主、特定作業従事者を労働者とみなして労災保険が適用されます。

給付の対象となる範囲

こちらも一人親方等と同様、保険給付の対象となる事故等は、従事者ごとに一定の業務に限定されています。

例えば⑧アニメーション制作作業従事者では、

  1. 契約に基づき報酬が支払われる作業のうち、アニメーションの制作の作業及びこれに
    直接附帯する行為を行う場合
  2. ①に必要な移動行為を行う場合(通勤災害の場合を除く)

のように限定されています。

こんな感じで、一人親方等の特別加入と特定作業従事者の特別加入は仕組みが同じで、違ってるのは業種や従事する業務内容くらいです。

特別加入するメリットとデメリット

ここまで労災保険の特別加入について紹介してきましたが、最後に特別加入のメリットとデメリットを紹介します。

特別加入のメリット

労災保険に特別加入するメリットは、やはり万一の事故に備えることができることです。

特に中小事業主等の特別加入においては、会社を継続していくうえで決して欠かすことのできない事業主やその家族、役員まで保護することができるので、大きなメリットといえます。

また、中小事業主等は特別加入をとおして労働保険事務組合に事務委託することで、納付額にかかわらず労働保険料を年3回に分割して納付することが可能になるというメリットもあります。

一人親方等については、特に建設業などでは労災に加入していないと入れない現場もあります。

そのため、メリットというよりも特別加入が必須になってきます。

特別加入のデメリット

中小事業主等は「労働保険事務組合」、一人親方や特定作業従事者は「特別加入団体」を通して特別加入する必要があります。

そのため、労災保険の保険料に加えて、団体に対して手数料や年会費が発生するというデメリットがあります。

まとめ

以上、今回は、労災保険の特別加入について紹介しました。

薬局経営者やフリーランス薬剤師は労働者でないため労災保険の対象とはなりません。

しかし労働者でなくても労災保険に任意加入する方法として特別加入があり、薬局経営者であれば中小事業主等として特別加入が可能です。

残念ながらフリーランス薬剤師はまだ特別加入が認められていませんが、今後フリーランスの働き方が広がることで、一人親方等や特定作業従事者として特別加入が認められる可能性は高いのではないでしょうか。

特別加入について詳しく知りたい方は気軽にお問い合わせください!