- 安全配慮義務
- 競業避止義務
- 秘密保持義務
このような言葉、聞いたことあるでしょうか。
働いているとよく聞く言葉なのですが、義務とされているものの、その根拠となる法律が見つからなかったりします。(安全配慮義務が労働契約法で記載されましたが)
実はこのような義務は、労働契約に付随して労働者や使用者に課される義務と考えられており、付随義務とも言われています。
この付随義務について理解していると、仕事における権利と義務を考えやすくなりますので、今回簡単に紹介いたします。
労働契約と付随義務
労働契約とは、労働契約法6条において
(労働契約の成立)
第6条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
と定められており、労働契約の主となる義務は、
- 労働者:労働に従事すること
- 会社:労働者の労働に対して報酬を与えること
です。
加えて、労働契約法3条第4項では、
(労働契約の原則)
第三条
4 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。
とも定めています。
この原則がいわゆる信義則と言われるものであり、この信義則に基づいて認められるのが付随義務です。
労働者側の付随義務として有名なのは、誠実義務や競業避止義務でしょうか。
会社側の付随義務として有名なのは安全配慮義務ですが、労働契約法の制定にともない法律上の義務にもなりました。(労働契約法5条)
付随義務は当事者間で明確に合意されたものではありません。
ですので、あまりこれを広く認めてしまうと、労使双方に予想外の不利益が発生してしまう可能性もあり、できるだけ限定的に認めるべきと考えられています。
競業避止義務
ここからは、それぞれの付随義務について少し見ていきます。
まずは労働者の付随義務である競業避止義務ですが、その名の通り労働者が会社の利益に反するような競業行為をしてはならないという義務になります。
副業の制限で問題になることもありますが、競業避止義務がより問題となるのは退職後です。
退職後は労働契約関係が解消されるので、労働契約の信義則を根拠として退職後も競業避止義務があると主張するのは無理があります。
しかし、もし退職後も競業避止義務を負うといった契約をかわしていたとき、労働者はどの程度その契約に拘束されるのでしょうか。
公序良俗に違反するかで判断
労働者には、憲法上の「職業選択の自由」(憲法22条1項)が保障されています。
ではこの「職業選択の自由」を根拠に競業避止義務を定める契約は全て無効なのかというと、裁判所はそのような判断はしていません。
個々の契約内容をみて、会社の利益、社会的利害、元労働者の不利益等を総合的に勘案して公序良俗違反(民法90条)で無効かどうかを判断する傾向にあります。
ですので、言ってしまえばケースバイケースということになります(笑)
秘密保持義務
労働者は、企業秘密を漏洩してはいけない。これも競業避止義務と同様、労働契約の付随義務として課されています。
秘密保持義務についても在職中は当然の話ですが、問題となるのは退職後です。
公務員には退職後も守秘義務を負うことが国家公務員法や地方公務員法で定められていますが、民間企業の労働者にはそのような規定がありません。
秘密保持義務の根拠を労働契約の付随義務とした場合、退職後はその義務が消滅してしまいます。
しかし、退職したからといって在職中に知り得た企業秘密の保持義務がすぐに消滅してしまうのでは、会社がかなりのリスクを負うことなります。
そこで、退職後の秘密保持義務についての合意がなくても、元労働者が会社の秘密を漏洩してそれにより会社が損害を被った場合には、会社は不法行為による損害賠償請求(民法709条)が可能という考えが一般的です。
秘密の漏洩は損害額の立証が困難
しかしながら、会社としては秘密が漏洩した場合に損害賠償請求するだけでは不十分なことが多いです。
なぜなら、秘密漏洩の場合、それによって生じた損害額の立証が困難だからです。
そのため、実際には秘密の漏洩をいかに防ぐかが重要になります。
退職時に、退職後にも及ぶ秘密保持義務契約を結ぶ会社は多いでしょうか。
しかし、もし結んでいない場合には、労働法ではなく不正競争防止法で対処することになります。
不正競争防止法では営業秘密について、不正の利益を得る目的などによりそれを使用したり開示したりする行為は「不正競争」に該当し、それにより営業上の利益を侵害されたり、侵害されるおそれがあるものは、差し止め請求を求めることができます。(同法3条)
また、一定の場合には刑事罰も定められています。(同法21条)
安全配慮義務
最後に安全配慮義務です。
労働者に働いてもらう以上、会社は労働者が安全に働けるように配慮しなければならない、という義務になります。
もともとは、陸上自衛隊員が自動車整備作業中に事故に遭って亡くなった「陸上自衛隊事件」の裁判で認められた付随義務でしたが、その後平成20年の労働契約法制定において労働契約法5条に規定され、法的な義務となりました。
(労働者の安全への配慮)
第5条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
安全配慮義務はハラスメント防止においても重要
職場で何か事故があって労働者が怪我をした場合、会社は安全配慮義務違反の責任を問われる可能性があります。
加えて、近年非常に増えているのがハラスメントです。
職場でハラスメントがあって労働者が精神疾患を患ってしまった場合などにも、会社は労働者が働きやすい職場環境を提供できなかったとして、安全配慮義務違反の責任を問われるケースが増えています。
職場におけるハラスメント防止措置なども義務化されてきていますが、そのもととなった考えがこの安全配慮義務になります。
まとめ
以上、今回は、労働契約に付随して労働者や使用者に課される義務、いわゆる付随義務を紹介しました。
これらは法律で明確に規定された義務ではないものの、判例等により認められた義務になります。
ですので、時代や労働環境によっては解釈が変わったり、場合によっては無くなる可能性もあります。
会社への誠実義務や競業避止義務と、副業の関係性はまさに変わりつつありますよね。
少し難しい話になってしまいましたが、義務というのは法律や契約書に書かれていることだけではない、ということは知っておいてほしいと思います。