業務命令

異動を断ることは可能?

大手の薬局やドラッグストアでは、全国に店舗のある会社も多いです。そうなると、転勤などの人事異動が必要となる機会も増えてきます。

大型店舗など、しょっちゅう人事異動で人が入れ替わってしまいますよね。

そんな中、家庭の状況などでどうしても人事異動に対応することが難しいケースもあると思います。

そういった場合、従業員は人事異動を断ることは可能なのでしょうか。

そこで今回は、会社から人事異動をお願いされたら断れるのかについて紹介します。

先に結論を述べておくと、基本的には断ることが出来ません

その理由についても紹介しますので、もしよければ読んでみてください。

人事異動の種類

一般的に人事異動と呼ばれるものには、主に4つの種類があります。

  • 転勤:勤務地を変更すること
  • 配置転換:業務内容を変更すること
  • 出向:同じ会社に所属したまま長期間他の会社の業務に従事すること
  • 転籍:会社を退職し、新しく別の会社と雇用契約を結ぶこと

異動と聞いてまずイメージするのは転勤だと思います。

薬局やドラッグストアだと、別の店舗に異動という話が結構ありますよね。

配置転換も、稀にですがあります。

店舗で薬剤師として働いていた人が、本社で人事などの部署に異動するケースです。

出向や転籍はかなり考え方が変わってくるので、今回は薬局やドラッグストアで多い、転勤配置転換について考えていきます。

転勤や配置転換は拒否できない

日本の会社は、簡単には従業員を解雇できません。

これについては何となく聞いたことがあると思います。そして、間違ってもいません。

その代わりといってはなんですが、会社には人事異動に対して広い裁量があります。

簡単には解雇しない代わりに、転勤や配置転換をあるていど自由に指示できるわけです。

正当な人事異動

そして、正当な人事異動を拒否した場合には、会社は従業員を解雇することができます。

従業員は決められた時間働き、会社はそれに対して給与を支払うという労働契約を結んでいます。

にも関わらず、会社の正当な人事異動を拒否して働かない従業員に対しては、労働契約に違反したということで解雇できるのです。

ただここで大切なのが、『正当な』人事異動ということです。

この人事異動が『正当』かどうかで揉めるケースが多く、裁判になることもあります。

ではどういった人事異動が『正当』なのでしょうか。

就業規則や雇用契約書

まず、就業規則や雇用契約書を確認します。

 就業規則

業務上の都合で必要となった場合に、異動を命じることがある、といった旨の記載があるかどうかを確認します。

この文言が無ければ異動が不当というわけでは無いですが、あるか無いかで大きく変わってきます。

異動の可能性があるような会社では、まず間違いなく記載してあるはずです。

 雇用契約書

次に雇用契約書では、

「転勤はない」

「職種は薬剤師に限る」

などの記載があるかどうかを確認します。

雇用契約書にこのような限定的な文言がある場合、異動は不当となる可能性が高くなります。

一方で、

「勤務地は〇〇」

「担当業務 薬剤師」

のような書き方の場合は、限定的な文言ではありませんので、これだけで異動が不当とは言いにくくなります。

異動の必要性

次に、その異動が本当に必要がどうかが大切です。

「本社でDI担当として働いてもらいたい」

「店舗での人間関係が上手くいかなかったため」

「他店舗で人が不足しているため」

このように、異動の必要性が本当にある場合は正当といえます。

不当な動機や目的はないか

一方で、そもそも異動の必要性が無い場合には正当とは言えません。

「必要性も無いのに異動することなんてあるの?」

と思うかもしれません。

多いのが、

「上司に逆らったので遠方の店舗へ異動」

のような、報復的な動機・目的の異動です。

こういった場合には、異動は権利の濫用であり不当と考えられます。

不利益の程度

また、異動の必要性があったとしても、通常受け入れられる程度を著しく超える不利益を負う場合。

そういった場合にも、権利の濫用と考えられる可能性があります。

とはいっても、この『通常受け入れられる程度』の判断がまた難しく、よく裁判になっています。

異動に関する裁判例

異動に関する判例は数多くあり、医療機関での裁判例もあります。

ある病院で医療事務として採用された人が、ナースヘルパーへの異動を命じられましたが、裁判の結果、無効となりました。

敢えて事務職として働いてきた人を配置転換する合理的な理由がなく、働く人に通常は受け入れられないような不利益が生じる。

というのが無効となった理由です。

まとめ

以上まとめると、

①就業規則に異動の可能性について記載がある
②雇用契約書に勤務地や職種を限定する文言がない

③異動に必要性がある
④異動に不当な動機はない
⑤通常受け入れられる程度の不利益を超えていない

この5個の条件を満たしている場合、基本的には異動が断れません。

一方で、満たしていない場合には、異動を断れる可能性があります。

最後に

ここまで、断れる、断れない、について法律や裁判例を根拠に書いてきました。

しかし法律的にどうだ、裁判例はどうだとなる前に、まずは上司と相談して決められるのが一番です。

会社と従業員が揉めても、誰も得しないですからね。

ただ上司と相談するときに、法律や判例ではこうなっている事を知っておくと、相談の流れが少し良くなると思いますので、今回の記事を参考にしていただければと思います。