職場のハラスメント問題は、薬剤師の業務においても無関係ではありません。
薬剤師は医療従事者として患者やスタッフと密接に関わるため、身近な問題です。
ハラスメントの対策をして働きやすさを求める一方で、「相手が不快に感じたらハラスメントである」という誤った認識が広がり、適切な指導や指摘までハラスメントと捉えられるケースも増えています。
本記事では、特に陥りやすいハラスメントの種類、指導する際のポイント、対応策について解説します。
ハラスメントとは?
まずは、ハラスメントの定義から見て行きましょう。
ハラスメント(harassment)は、本来「嫌がらせ」「いじめ」「苦しめること」を意味します。
国際労働機関(ILO)では、職場のハラスメントを
「単発か繰り返されるかにかかわらず、身体的、精神的、性的若しくは経済的損害を目的とした、若しくはこれらの損害を引き起こす若しくは引き起こす可能性がある一定の範囲の許容できない行為及び慣行又はその脅威をいい、ジェンダーに基づく暴力及びハラスメントを含む。」
と定義しています。
基本的な要素として以下が挙げられます。
- 不適切な言動または行動
- 他者の尊厳や快適な環境を損なう言動
- 被害者の意思に反する行為
被害者が不快感や苦痛を感じることが重要であり、加害者の意図の有無は問いません。
- 相手に身体的・精神的・社会的な不利益を与える
- 言葉や行動が相手に悪影響を与えたり、権利を侵害するもの
被害者の不快感や苦痛が要素となるものの、「相手が不快に感じた時点でハラスメント」というのは誤った認識です。
これが問題を複雑にし、指導が難しくなる要因の一つになっています。
本来のハラスメントの考え方として「不快だからハラスメント」ではないということです。
指導とハラスメントは違います。
ハラスメントは、自分が受けた言動が「不快」であることの根っこにあるのが「人格や尊厳を傷付けられる言動」であったどうかが基準になります。
「嫌いな上司から言われた一言が気に入らない=不快だ」
「失敗を厳しく注意されてグサッときた=不快だ」
など「不快に感じたかどうか」だけで判断されるものではありません。
あくまでも「人格や尊厳を傷付けられたから、その結果が不快」なことがハラスメントなのです。
部下指導の際、
- 上司やリーダーは部下の尊厳を傷付ける暴力行為
- 「死ね」「お前なんかいらない、辞めちまえ」という存在否定の言動
- 能力や成長を否定する「バカには何をいっても無駄」「どうせお前には無理」
などの言動は指導ではなくハラスメントであり、そのような言動は誰に対しても許されないという認識を持つ必要があります。
一方で、「こういうミスは繰り返さないように」「遅刻が多いのは問題だ」など、具体的な問題行為について指摘し、改善を促すのは上司の役割といえます。
ハラスメントの種類
大切なことは区分ではなく、尊厳を傷つける言動かどうかですが、ここではよくあるハラスメントについて触れていきます。
ハラスメントの典型的なパターンは
- 身体的な攻撃(暴力など)
- 精神的な攻撃(暴言や侮辱)
- 人間関係からの切り離し(仲間外れや無視)
- 過大な要求(達成不可能な仕事を押し付ける)
- 過小な要求(簡単すぎる仕事のみを与える)
- 個の侵害(私生活に過度に干渉する)
この6つが挙げられます。
パワーハラスメント(パワハラ)
職場の上下関係を利用した威圧的な指導や不適切な扱い。
上司・先輩・管理者・雇用主など、優位な立場にある人からの強い指導がハラスメントと捉えられるケースがあります。
具体例
先輩薬剤師が後輩に「お前には無理だ」「バカには何を言っても無駄」と言う
管理職が部下の意見を一切聞かず、一方的に指示を出す
休憩時間を与えずに連続勤務を強制する
指導
「このミスは繰り返さないように注意して」
「業務の手順をもっとしっかり覚えて」
セクシャルハラスメント(セクハラ)
性別や性的な言動を通じて、相手に不快感や苦痛を与える行為がこれにあたります。
具体例
性的な冗談や不適切な身体接触。
容姿や服装に関する過剰なコメント。
指導
社内規則などの規定に則った服装の指導
モラルハラスメント(モラハラ)
職場内での陰湿な嫌がらせや精神的な圧力。
具体例
特定の人だけに仕事を与えない
意図的に情報を共有しない
目の前で悪口を言う
新人を孤立させる
カスタマーハラスメント(カスハラ)
患者やその家族、来局者などからの過度な要求や攻撃的な言動。
具体例
「薬をすぐに出せ!」と威圧的に迫る
「お前の説明は信用できない」と人格否定を含む暴言
「この薬の効果がなかったから返金しろ」と無理な要求
「○○薬局の薬剤師はもっと親切だった」など比較して圧力をかける
その他のハラスメント
マタニティハラスメント(マタハラ):妊娠・出産を理由に不利益な扱いを受ける行為。
エイジハラスメント:年齢を理由にした差別や侮辱。
ジェンダーハラスメント:性別役割に基づく偏見や圧力。
リストラハラスメント:解雇を強要する不当な行為。
ハラスメントではないのにハラスメントと捉えられるケース
相談を受ける側の経験則として、ハラスメント相談の約2割は「ハラスメントではない可能性がある」という指摘があります。
以下のようなケースがあるようです。
(1) 相談者が不用意に相手を怒らせている
患者への説明が雑だったり、言葉遣いが適切でなかった場合、相手が怒ってしまうことがある。
例:「薬の説明をいい加減にしたことで患者が怒り、それをハラスメントと感じる」
(2) ハラスメントとは別の問題を抱えている
仕事のストレスや、家庭の問題が原因で「上司が冷たい」と感じている。
例:「職場の人間関係がうまくいっていないが、パワハラだと決めつける」
(3) 単に「相手が嫌い」
ある上司の言動が嫌いで、全てをハラスメントと感じてしまうケース。
→ 重要なのは「人格や尊厳が傷つけられたかどうか」で判断すること。
ハラスメントを防ぐための具体的な対応策
ハラスメントの加害者にも被害者にもならないために、以下の対策を意識しましょう。
上司・リーダーとしての適切な指導方法
具体的な問題点を指摘し、人格を否定しない
×「お前は本当にダメだ」
○「この業務ではミスを防ぐために、こう改善しよう」
改善のゴールを明確に示す
×「これはダメ、あれもダメ」
○「こういう改善をすると、患者の安全性が高まる」
部下の不安や不満に寄り添う
一方的に指導するのではなく、背景を聞きながら改善策を提案
会社としてカスハラ対応マニュアルを作成し、全員で統一した対応を取る。
カスハラに対しては業務外の要求には毅然とした態度を取るなどが有効なケースもあるでしょう
部下・同僚としての適切な受け止め方
- 指導をハラスメントと決めつけない
- ミスの指摘を「パワハラだ」と感情的に捉えないようにする
- 困ったら第三者に相談する
- 同僚や管理者、労務担当に客観的な意見を聞く
まとめ
職場ではさまざまなハラスメントのリスクが存在します。
しかし、一方で「単に厳しい指導を受けた」「相手が嫌いだから」という理由でハラスメントと捉えられることもあります。
ハラスメントを防ぐためのポイント
- 「人格を傷つける言動」はハラスメント
- 「具体的な指導」は適切な業務指導
- 部下の状況や不安をよく聴き、理解する
- ハラスメントの判断は感情ではなく、客観的な視点で行う
適切なコミュニケーションを心がけ、健全な職場環境を築いていきましょう。