飲食店で食中毒が発生し、業務停止になったり行政処分が科されるニュースをよく耳にします。
薬剤師として、公衆衛生のことは身近です。
特に病院や薬局では、ノロウイルスなど胃腸炎の患者さんやご家族から、消毒方法について聞かれるような場面は案外多いと思います。
また、飲食店勤務の方が患者さんとして来るケースもあります。
飲食店における食中毒は、場合によっては営業停止や営業許可取消になるなんて知識もあると、指導の幅が広がります。
直接関わる機会は多くはないかもしれませんが、食中毒に関する法制度について知っておいて損はありません。
食中毒で営業停止になるケースとは?
食中毒が発生すると、業種によっては営業停止などの行政処分が科されることがあります。
営業停止になるかどうかは、次のような要素で判断されます。
営業停止になる主な要件
- 食中毒が発生し、原因施設と断定された場合
- 多数の患者に影響を与えた場合
- 従業員や施設の衛生管理に重大な過失があった場合
- 過去にも同様の指摘・違反があった場合
- 報告義務を怠った場合(報告遅れや隠蔽)
例えば、厨房内の温度管理不備、手洗いの徹底不足、調理器具の使い回しなどが原因で食中毒が起きた場合、「〇日間の営業停止命令」などが出されることがあります。
関連する法律と制度
食中毒に関する営業停止処分などは、どんな法律を根拠にしているのでしょうか?
食品衛生法
食品衛生に関する基本的な法律で、営業者(飲食店、施設、販売業者など)には以下が義務づけられています。
- 食品の安全な取り扱い
- 従業員の健康管理(下痢・発熱時は業務から外す)
- 衛生管理計画の作成と運用(HACCP)
- 食中毒が疑われるときの届出義務
食品によって健康被害を生じる恐れがあるとき、都道府県知事などが営業停止や禁止を命じることができます。
感染症法
食中毒の原因になる病原体(例:サルモネラ、カンピロバクター、ノロウイルスなど)が感染症に該当する場合があります。
特定の病原体が検出された場合には、医師に届出義務があります。
集団感染の場合は保健所による調査・指導・営業停止命令が可能です。
健康増進法
不特定多数に提供される食品等について、衛生管理や健康被害防止が求められます。
「飲食店に〇日間の営業停止命令」などの行政指導は、主に食品衛生法や感染症法に基づいています。
行政処分の内容と範囲
食中毒が発生した際、保健所などの調査結果によって、次のような処分が下されることがあります。
- 指導・・・軽微な違反、初回の過失などの場合、口頭や書面による改善指導があります。
- 営業停止・・・多数の患者・重大な過失・再発などで、1日〜数週間の営業停止となることがあります。
- 営業許可取消・・・悪質な違反、再三の行政指導無視などで、営業許可が取消となる場合もあります。
参考までに・・・
飲食店の営業許可は、店舗の所在地を管轄する保健所に申請します。
店舗の所在地を管轄する保健所に申請すると、保健所の立会検査を受けます。合格すると営業許可証が交付される流れです。
飲食店への影響
食中毒の原因が飲食店にあると推定・決定された場合には、拡大防止や再発防止のためにその状況に応じて食品衛生法に基づく必要な処分又は指導を保健所が行います。
行政より食品衛生法に基づく営業停止命令などを受けることとなり、最低でも3日間、長ければ7日間程度の間、お店で営業をすることができなくなります。
営業できないので、売上がなくなります。
患者さんの医療費、通院交通費、休業損害金、見舞金など、1人あたり3~5万円程度を店舗が負担することとなり、患者数が多い場合には、これらの費用だけで数十万円も現金が出ていくこともあります。
また、場合によっては弁護士費用も・・・
食中毒によって、飲食店にはとても大きな損失の可能性があるのです。
まとめ
食中毒は営業停止や業務停止になる可能性がある重大なリスクです。
食品衛生法・感染症法などに基づき、報告義務と処分規定があります。
日々の衛生管理(手洗い、加熱、温度管理、調理器具の分別など)が最も重要です。
そして、公衆衛生を担う薬剤師として、現場レベルでできることもあると思います。
ご存じの通り、ノロウイルスのように無症状でも、感染後症状が落ち着いていても感染源のなり得る病気もあります。
薬剤師は消毒や感染予防の知識に関してはプロですから、こういった背景も知っていて投薬時などにプラスアルファお話しできると指導の質も上がります。
また、もし薬局で飲食を提供する場合には保健所の許可が必要になる場合もありますので、その点も知っておきましょう。