フリーランス薬剤師

フリーランス薬剤師も知っておきたいフリーランス新法について解説~後編:法律の内容と薬剤師への影響~

前回の記事では、フリーランス新法を知るうえで大前提となる特定業務委託事業者や特定受託事業者の言葉の定義、および発注者と各規制の関係について紹介しました。

フリーランス薬剤師も知っておきたいフリーランス新法について解説~前編:特定受託事業者って?~「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」いわゆるフリーランス新法が令和5年4月28日に成立し、同年5月に12日に公布されました...
取引の適正化
(対 特定受託事業者
就業環境の整備
(対 特定受託業務従事者
業務委託事業者 一部有
(給付内容等の明示)
特定業務委託事業者

今回の記事ではその続きとして、フリーランス新法の内容について紹介したうえで、フリーランス薬剤師にあたえる影響についても紹介していきます。

取引の適正化に関する

フリーランス新法の内容は、おおきく

  • 受託者がフリーランス等である取引の適正化
  • フリーランスの就業環境の整備

この2つの内容に大別されます。

まずは取引の適正化についての紹介になりますが、フリーランス新法では、取引の適正化に関する規制について

  1. 給付内容等の明示
  2. 支払期日等
  3. 禁止行為

の3つに分けられます。

①給付内容等の明示

  • 特定受託事業者に対し業務委託をした場合、給付の内容その他一定の事項を書面又は電磁的方法により明示しなければならない(法3条)

法律では

  • 給付の内容
  • 報酬の額
  • 支払期日

が例示されていますが、今後詳細が決定される予定です。

なお、この①給付内容等の明示については業務委託事業者にも適用となります。

フリーランス同士での契約であっても明示の義務が発生しますので注意が必要です。

これまで気軽にチャットツール等で報酬だけのやり取りをしていた場合、フリーランス新法の施行後は、必要事項を網羅した契約書やメールのひな型をあらかじめ用意しておくと良いでしょう。

②支払期日等

  • 特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、報酬を支払わなければならない(法4条1項)

これについては「給付の受領」の解釈によって期日が変わってくるのですが、この辺りは下請法でも同様の規制があります。

ですので、下請法の解釈等を参考にして詳細が決定されていくものと思われます。

③禁止行為

  • 特定受託事業者との業務委託(政令で定める期間以上のもの)に関し、(1)~(5)の行為をしてはならず、(6)・(7)の行為により特定受託事業者の利益を不当に害してはならない(法5条)

(1)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
(2)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
(3)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
(4)通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
(5)正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
(6)自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
(7)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

こちらも下請法の遵守事項と内容が重なっているため、下請法と同様の解釈で運用されることが予想されます。

また、業務委託においては契約期間が長期になるほど受注者が不利益行為を受けやすいという調査結果もあるため、これら禁止事項は政令で定める期間以上の業務委託に限定される予定です。

就業環境の整備

次に就業環境の整備です。

就業環境の整備については、いわゆるフリーランスや一人法人のような業務委託事業者が発注者の場合には、規制が適用されません。

内容は、大きく以下4つに分けられます。

  1. 募集情報の正確かつ最新の表示
  2. 育児介護等との両立に対する配慮
  3. ハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置
  4. 中途解除の予告

①募集情報の正確かつ最新の表示

  • 広告等により業務委託先を募集するときに、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示は禁止されます。(法12条1項)
  • また正確かつ最新の内容に保つ必要があります。(法12条2項)

業務委託先を探す場合には仲介事業者を利用するケースが多く、その募集広告に正確かつ最新の表示を求める内容になります。

例えば、報酬について実際より高く表示したり、高いと誤解されるような表示をすることは禁じされます。

また、募集をだした後に条件が変わったり、募集を終了した際には、募集の記載内容を適宜変更したり、募集を取り下げるといった対応が必要になります。

②育児介護等との両立に対する配慮

  • 継続的業務委託の相手方からの申出に応じて、育児介護等との両立に必要な配慮をしなければならない(法13条1項)
  • 継続的業務委託ではない業務委託の場合でも、相手方からの申出に応じて育児介護等との両立に必要な配慮をするよう努めなければならない(法13条2項)

継続的業務委託の詳細については今後検討されますが、更新を伴う業務委託期間の合計が一定以上の業務委託となる予定です。

継続的委託業務の場合には義務、継続的委託業務ではない場合には努力義務となりますが、具体的にどのような配慮が必要となるかは今後検討されていくことになります。

③ハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置

  • ハラスメント行為によりその就業環境を害することが生じないよう、相談対応等の必要な体制の整備など必要な措置を講じなければならない(法14条1項)
  • また、当該相談を行ったことなどを理由として、契約解除などの不利益な取り扱いをしてはならない(法14条2項)

ハラスメントの内容としては

  • セクハラ
  • マタハラ
  • パワハラ
  • カスハラ

が対象となります。

また、必要な措置の具体的な内容についてはまだ明らかではありませんが、会社においては他の法律においてすでに各種ハラスメントの相談窓口が設置されているはずです。

ですので、実務的にはその相談窓口に業務委託先も追加することになるでしょう。

④中途解除の予告と解除理由の開示

  • 継続的業務委託に係る契約の解除(更新拒絶の場合を含む)をしようとする場合には、特定受託事業者に対して少なくとも30日前までにその予告をしなければらない(法16条1項)
  • 特定受託事業者が当該予告日から契約満了日までにおいて契約解除理由の開示を請求した場合、遅滞なくこれを開示しなければならない

業務委託の契約書においては、すでに契約解除について様々な定めを設けていると思います。

今後明らかとなる詳細によっては、契約書のひな型を見直す必要が出てくるかもしれません。

また、中途解除の予告と解除理由の開示に関する規定については継続的業務委託の場合のみであるため、業務委託の契約期間についてしっかり管理していく必要があるでしょう。

フリーランス薬剤師への影響

ここまで長くなりましたが、最後にフリーランス新法があたえるフリーランス薬剤師への影響を考えます。

給付内容等の明示が義務付けられる

まずは一番大きなこととして、給付内容等の明示が義務付けられることが挙げられます。

仲介事業者を通して業務委託契約を締結している場合には、きちんとした契約書を作成していると思います。

しかしそうでない場合には、契約書を作成せず簡単なメールやチャットだけだったり、口約束だけという方もいるのではないでしょうか。

そういったケースに関しても、新法の施行後は給付内容等の明示が義務付けられます。

もちろんメールやチャットでも問題はないのですが、明示すべき事項が明記されますので、最低限それらの事項については文字にして記録を残しておく必要があります。

中途解除は30日前までに予告が必要になる

薬局側がフリーランス薬剤師を利用する理由として、一時的に薬剤師が足りない期間をカバーするというのがあります。

一時的に薬剤師が足りない期間とは、例えば産休育休で薬剤師が足りない期間だったり、退職した薬剤師の代わりが採用できるまでの期間だったりです。

そういった期間にフリーランス薬剤師と契約する場合、30日前までの予告というのがハードルになる可能性があります。

保護され過ぎる可能性がある

これはフリーランス薬剤師に限った話ではありませんが、変に保護され過ぎる可能性が挙げられます。

某業界でも昨年、その業界で働く人を保護する目的で新法が成立したのですが、なんとその業界で働く人たちが反対するという事態が起こりました。

「保護してもらえるのに何で?」と思うかもしれません。

反対する理由としては、その新法による保護が手厚くなり過ぎてしまい、その業界で働く人たちに仕事を依頼する会社が無くなってしまう、というものでした。

いくら手厚く保護されようが、それによって仕事が無くなってしまうのでは意味がないですよね。

そして、全く同じことがフリーランス新法にも起こりえます。

フリーランス薬剤師のほとんどは、従業員を雇っている薬局(特定業務委託事業者)と契約していると思います。

そうなると、その薬局には就業環境の整備に関する規制が適用されます。

では、就業環境の整備に関する規制をみて、どう思いましたか?

②育児介護等との両立に対する配慮③ハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置は本当に必要なのでしょうか。

もちろん、あったら嬉しいのは間違いありません。

しかし、もし必要とされる配慮や整備が薬局にとってあまりに大変だった場合、薬局はフリーランス薬剤師と契約するメリットが無くなるのではないでしょうか。

このあたりの詳細については、今後検討されていく予定です。

検討の結果、どういった配慮や整備が必要とされることになるのか、しっかりチェックした方が良いと思います。

まとめ

以上、今回は、フリーランス薬剤師も知っておきたいフリーランス新法について、その内容やフリーランス薬剤師への影響について解説しました。

現状はまだ法律が成立しただけの段階であり、今後少しずつ詳細が検討されていくはずです。

しかし展開しだいではフリーランス薬剤師に大きな影響を及ぼす法律であるため、しっかりチェックしていきたいと思います。

そして、これまで契約書などを作成していなかった方は、施行にむけて少しずつ準備していきましょう。

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