精神疾患の患者数は年々増加しています。
そして、仕事が原因で精神疾患を発症してしまう方も少なくありません。
このあたりは、薬剤師として仕事をしていれば何となく感じることもあるのではないでしょうか。
仕事が原因で精神疾患を発症した場合には労災が関係してくるのですが、実際に仕事が原因かどうかを明確にするのは非常に難しいです。
そこで厚生労働省では認定基準を定めています。
今回は、そんな認定基準の考え方の基にもなった「ストレスー脆弱性理論」について紹介いたします。
「ストレスー脆弱性理論」とは
精神疾患の発症原因については議論があるところですが、実務上は、精神医学の標準的な見解である「ストレスー脆弱性理論」が取り入れられています。
「ストレスー脆弱性理論」とは、精神疾患の発症は、環境由来の心理的負荷(ストレス)と、個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという理論です。
心理的負荷が非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、心理的負荷が小さくても破綻が生じることになります。
患者さんや周りの同僚を見てると、なんとなくイメージできるのではないでしょうか。
平成11年の専門検討会で提案
この理論は、平成11年の精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書で提案されました。
それまでは、業務によるストレスが原因となって精神疾患を発症し、あるいはその精神疾患によって自殺したとして労災請求された事案については、精神医学の専門家による個別検討によって判断されてきました。
しかし行政機関による斉一的な対応を行うため、この理論を基にして業務ストレス強度を客観的に評価する基準が示されました。
脆弱性とは
脆弱性についてもう少し見てみます。
精神的な脆弱性とは、簡単にいえば心の弱さです。
同じストレスでも精神疾患を発症する人もいれば発症しない人もいるということで脆弱性には個人差があるわけですが、この個人差には先天的な要素と後天的な要素があると考えられています。
先天的な要素とはつまり遺伝的なもの、生まれ持った素質のことをいいます。
一方の後天的な要素とは、学習や訓練により得られる能力やストレスへの対応力のことをいいます。
たとえばストレスの発散方法があるか無いかは、後天的な要素が大きいでしょう。
さらにいえば、後天的な要素であるなら、会社としても出来ることがあるかもしれません。
ストレスの大きな業務であるなら、会社としてストレスを発散する機会を提供するということです。
まあこのストレス発散というのがまた個人差があり、会社としてストレスを発散できると思ったことが人によっては逆にストレスを増やすこともあるため難しいのですが。
労働者の脆弱性が大きいと会社の責任は小さい?
これは労災とはまた別の問題ですが、労働者が精神疾患を発症し、会社を訴えるケースは実際にあります。
ではもしその労働者の脆弱性が大きかった場合、「ストレスー脆弱性理論」をもとに、会社の責任というのは小さくなるのでしょうか。
実は裁判においては、会社の責任は小さくならない傾向にあります。
もちろん脆弱性には個人差があり、同じストレス下においては精神疾患を発症する人としない人がいます。
しかしこれは会社として当然に想定しておくべきことであり、その労働者の脆弱性が通常想定される範囲を外れていない限り、会社の責任は小さくならないとしています。
ですので会社は、精神的な脆弱性が様々な従業員がいることを前提として業務を設計していく必要があるのです。
「〇〇君はできたのに何でお前はできないんだ!!」
みたいな考え方は論外なわけです。
まとめ
以上、今回は、労災認定基準の考え方の基にもなった「ストレスー脆弱性理論」について紹介いたしました。
この理論を知って、業務設計だけでなく患者対応にも活かしていただければと思います。